第19話『トラップ』

《水戸side》


「この中で『嘘』をついたやつがいるよね?」


綴のその一言で辺りが静かになった。

この中に…嘘をついた人…?

「綴くん、それって確証があるの?それとも感?」

世宗が冷静に綴に問いかけた。

「綴…ちゃんと説明を…」

「僕、実はトラップを仕掛けてみたんだよね。」

「トラップ……?」

「そう。ひとつの賭けをしたんだ。」

綴はそう言うと机から離れ歩きながら話をし始めた。

「僕は水戸と春樹と『1-A』を探索していたんだ。そして3年生の先輩と他の2年生は真逆の『3-A』を探索していた。それは本当だよね?」

「あぁ…私たちは確かに『1-A』を探索したぞ。」

「私達も『3-A』にいたよ〜?ですよね先輩方?雷華もかなめも?」

「はい。それは私たちが保証します。」

雷華たちはうんうんと頭を縦に振った。

「そして1年生2人は校内を探索。教室には入っていないんだよね?」

「はい、そうです。」

「えぇ。入っていない。」

1年生2人はそう言った。

「へぇ〜…そうなんだ。」

そして綴はとある人の前に立ち足を止めた。


「ねぇ、靴底見せてくれない?

1年生の割に頭のキレている琴梨さん??」


琴梨の前で綴は足を止め、喧嘩腰に問いかける。

琴梨が嘘…?なんの為に?

それに靴底って……?

「靴底を見せて何があるの?時間の無駄。」

「無駄なんかじゃないよ。いいから見せてよ。」

「あなたに見せるメリットが私には無い。」

「そう。ならいいよ?でも…こんな状況じゃ君、みんなから疑われちゃうね…??」

「………」

「仲間の神希くんが可哀想…君をかばって一緒に疑われる……ひどいなぁ…可哀想だなぁ…」

「おい、綴!」

挑発する綴を私は止めようとした。

「……いいわ。そんなに見たいなら見せてあげる。」

琴梨はそう言い、靴を脱いで底を私たちに見せてきた。

その靴底は『ある物』が付いていた。


「こ…これって…」

「…【チョークの破片】…??」

琴梨の靴底についていたのは踏まれて粉々になった【チョークの破片】だった。

「やっぱり…君、『1-A』に入ったんだね。」

「………」

「おい綴…どういう事だ…?」

「実は僕、教室を出る時に黒板の所にあったチョークをドアの近くに落としておいたんだ。誰かが来た時に踏んで足に着くようにね。そしてさっきここに来る前に教室に確認しに行ったんだ。」

「でも確認って…教室は鍵が閉められていたはずじゃ…?」

世宗がそう問いかけてきた。

「確かに鍵はかけられているよ。『教室』はね。僕が置いたのは『廊下のドア前』。だから見に行けたんだ。」

綴…いつの間にそんなことを…

「君の靴底に【それ】が付いているって言うことは『1-A』に行ったんだよね?」

「………」

琴梨は黙ったままだった。

「…神希、どうして嘘をついたんだ?なにか理由があったのか?」

「そ、その……それは……」

神希がオドオドとしていると琴梨がボソボソと話してきた。

「…からよ………」

「ん、今なんて……」

「あんたらが信用できないからよ!!!」

琴梨は大声で私たちに怒鳴ってきた。

「ちょ、琴梨…落ち着いて…」

神希が宥めようとしても無駄だった。

「私は見たの!!!こいつが…こいつらが私と神希に手を出そうとしていたところを!!!この女が…!この女が……!!!血だらけの…!っっ…………」

琴梨は何かを言いかけて静かになった。

「見たって…どういう事だ…?私たちは何もしていないし……血だらけってなんの事だ…?」

「琴梨…!何を見たんですか!?!?僕に話してください!!」

神希も琴梨が言っていたことを知らないみたいだった。彼女は一体何があったんだ…?

私たちが知らない…何かが起きているのを知っているのか……?

「琴梨…?」

「……なんでもない。気分が悪いからもう寝る。」

琴梨はそう言い、自分の部屋へと駆けていった。

辺りがまた静かになる。

重い空気。

琴梨への疑心。


「あの…嘘をついたことは謝ります。すみません…」

神希は私たちに頭を下げてきた。

「確かに僕達は『1-A』に入りました。見落としが無いかどうか…確認したかったので……水戸さんたちの後をつけていきました。」

「…なるほど。わかった。ありがとう。」

「…すみません…。でも、琴梨を責めないであげてください……あの子は…多分この中で1番辛いだろうから……」

そう言うと神希はぺこりと頭を下げ、琴梨の後を追いかけていった。


「えっと……とりあえず今日はここでお開きにしようか。一旦みんな休もう。また明日、ここで集まろう。」

「そうですね…わかりました。」

私たちは世宗の支持でお開きにした。


琴梨が言っていたことが頭に引っかかる。

私が神希や琴梨に手を出した…?

血だらけ…?

何も覚えがない。神希と琴梨にあったのはついさっきの事だ。

一体何を言っていたのだろうか…

「水戸。」

綴が後ろから声をかけてきた。

「…綴か。どうした?」

「水戸はさっき琴梨が言っていたこと、覚えはある?」

「……ない。全く。」

「………うん。そうだよね。」

今、綴はきっと力を使ったのだろう。

綴も困惑していたはずだ。

「水戸は嘘をついていない。それは僕が証明する。大丈夫。」

「…ありがとう。」

「僕も2人を信じてるから。水戸も綴も今日は休んで。」

春樹は私と綴の頭をポンポンしながらそう言った。

「ありがとう。おやすみなさい。」



こうして私たちの奇妙な日常の1日目は

幕を閉じた。

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