第18話『情報戦』
《水戸side》
私・春樹・綴は3人で教室の探索をすることにした。
まだ校内をよく把握出来ていないため最初私たちが出会った場所に向かうことにした。
「僕達が水戸に会う前、いくつか教室があったんだけどどれも鍵がかかっててね…多分そこの鍵が空いたんだと思う。」
「じゃあ今回は時間的にその中の1教室だけだな。どこがいい?」
「順番で言うなら…ここじゃないかな。」
私たちは「1-A」と書かれた教室の前まで来た。
「僕達が倒れていたのは隣の『1-B』だったんだ。だからここがどうしても気になって…」
春樹がそう言った。
「そうだな。じゃあ見てみようか。」
私はドアに手をかけ教室に入った。
教室は普通の学校のクラスのように教卓が置かれ、机が並んでいた。
ぱっと見気になるところがあるとすれば、教卓の上に置かれたファイルだ。
「なんだ〜このファイル?中覗いてもいい?」
綴がそう聞きながらも自分からファイルを開いた。
「なんて書いてあるんだ…?」
「ちょっと待ってね〜長いから春樹読んで。」
「え!?僕!?もー…自分で読みなよ…」
そうブツブツと言いながらも春樹は綴からファイルを受け取り中のものを音読し始めた。
『【エレクトギオンについて】
人は大昔、魔法のような力に憧れていた。
しかしそれは非現実的・非科学的な事で「ありえない」「絶対に無理」と言われていた。
そんな時、1人の神様が人間に力を与えた。
最初は1人、そしてその子孫に1人…と、どんどん人間の力は広まっていった。
現在では全人類が魔法のような力を手に入れて暮らしている。
その時代を「エレクトギオン時代」と呼ぶ。』
ファイルの内容は私たちが小学生の頃に教わった今の時代「エレクトギオン時代」についてのものだった。
「なんでこんな当たり前のことが書いてあるの…?もっとこう…謎みたいなものかと思ってたけど…」
春樹が困った顔をしながら頬をかいている。
「確かにそうだよね。これどうする?一応持ち帰っとく?」
「そうだな。夕食の時にみんなと情報共有をするだろうしこれは持ち帰ろう。春樹、持っててもらえる?」
「うん、任せて。荷物持ちなら得意だよ!」
自分胸をとんとんと叩いて春樹はファイルを持った。
「あとこの教室で気になることといえば…」
「…まぁこれだよな。なんだこの窓。」
普通の教室にはあるまじき物がここにはあった。
それは窓。
窓は鉄格子で内側から頑丈にされ、窓は黒く外の景色が見えないようになっていた。
「なんか、監禁されるために作られたとこみたいだね。」
綴がぼそっとそう言った。
確かに、廃校とはいえわざわざ私たちのために窓や建物のリフォームをしたとは考えにくい。
しかも電子ロックなどもきちんと動いている。
建物もヒビや瓦礫がたまにあるが撤去すれば問題なく使える建物だ。
この建物自体も、なにか秘密があるのかもしれない。
「黒板の方は特に異常なし。電子のくせにチョークはちゃんとあるんだね。」
綴は黒板をコンコンと叩きながらそう言った。
「こっちにも特に何も無かったよ〜!」
後ろの方を見ていた春樹が前に帰ってきた。
「それじゃあ…寮からここに来るまでも10分かかったし…そろそろ帰った方が良さそうだな。収穫はあまり無かったが…」
「みんながなんか見つけてるかもしれないしね。じゃあ行こっか。」
私と春樹はそう言ってすぐに教室を出た。
「おい綴〜?はやく〜?」
「あ〜ごめんごめん。」
綴はポッケに手を突っ込みながらよそよそと出てきた。
「それじゃあ戻ろうか。」
私たちは寮に戻った。
「お、水戸っち〜!!」
寮に戻るとちとせがブンブンと手を振ってきた。
「おかえりなさい!ねぇこっちきてきて〜!!」
ちとせは私の腕をつかんで食堂の方へ走っていく。
「ちょ、待って〜!!」
春樹と綴が走って追いかけている。
「おい、ちとせ…なんだ…よ…これ…」
私はちとせに引っ張られるなり食堂に来て驚きの光景を見た。
「水戸〜!!って……何これ!?!?」
「めっっっっっちゃ美味しそう!!!!!」
綴がぜえぜえと息をしながら、春樹は目を輝かせながらこちらを見ていた。
「あ、先輩方おかえりなさい!!料理が用意されていたのですが物足りなかったので…僕が作っておきました!!」
神希がとことこと食堂の奥から走ってきた。
「これ…神希が作ったのか…?」
「?はい!そうですよ!」
ニコッと笑みを浮かべ、「当たり前ですよ」と言っているような表情をした。
「皆さんの好き嫌いが分からなかったので…王道のものを作りました。フランスパンが置いてあったのでミネストローネグラタンとサラダ、あとはオードブルを用意しました!!デザートにはフルーツゼリーとフルーツポンチを用意しましたよ!!炭酸が無理な方はフルーツゼリーをどうぞ!!」
神希が私たちを席に案内し料理の説明をしてくれた。
「えっと…神希ってシェフかなにかなのか…?普通の料理より…こう…輝いて見えるんだが……」
「ふぇ!?そんな!シェフじゃありませんよ!?そんなにすごい物も作れませんでしたし…」
神希は照れながらも焦って否定してきた。
「そんな事ないよ神希くん!めっちゃ美味しいよこれ!!」
横で先に食べていた世宗先輩が美味しそうにもぐもぐと食べていた。
「味付けも完璧なの…」
乙羽先輩も真剣な表情でグラタンを見つめていた。
「ほ、本当ですか…?それは良かったです…!!」
神希は「えへへ」と言いながら照れていた。
それぞれ私たちは食事を済ませ、食休みを取ってから話し合いをすることにした。
「水戸、ちょっといい?」
綴が私にこっそりと話しかけてきた。
「ん、どうした?」
「水戸の部屋でちょっと話したいことがあって…」
そう言い、私と綴は私の部屋で話をすることになった。
「で、どうしたんだ?」
「神希くんと琴梨ちゃんの事なんだけど…」
「その2人がどうした…?」
「多分あの2人、初めてあった時『主』とかそんな感じの事言ってたでしょ?」
「あぁ…そういえば言っていたな…」
「あれ、琴梨ちゃんが主人ってことでしょ?様子を見てた限り、あの子結構いい所のお嬢さんみたいだね。」
「そうなのか…?でもなんでいい所のだって分かるんだ?」
「さっきの食事の時、食器の種類覚えてる?」
「食器…?銀だったよな…?」
「そう。銀は毒に反応する。それをわかっていて出してきたんだよ、神希くん。さっき食器入れを見た時ほとんどガラス製の物だった。銀の食器はほんの少ししかなかったんだよ。そしてその食器を出した人…世宗先輩と乙羽先輩、ちとせ、雷華、かなめ…みんな銀じゃなかったんだ。」
「つまり神希は私たち3人にしか銀の食器を使わなかった…?」
「そう。つまりあの2人は僕達のことを一番信用してない。自分が作った料理に毒が入っていると思うであろう人にしか銀の食器を出さなかった。」
「じゃあ…私たち3人が疑われている…ってことか?」
「まぁそうなるね。もし違くても、あの2人は想像以上に頭がキレるってこと。なかなか厄介な子達ってことだね。」
あの2人…いい子だとは思うが確かに怖い時は恐ろしく怖い。
琴梨ちゃんは年上の綴にも容赦ない対応をしていたりあんまり人のことを信用しないタイプだろうと言うのは密かにわかっていた。
神希くんはとても気の利く子だと思うが、琴梨ちゃんが主人…主人の命令には絶対。つまり私たちに何をしてくるかわからない…
「あの2人、警戒しておいた方が良さそうだよ。」
「…わかった。」
「じゃあそろそろ時間だし水戸は先に行ってて。僕ちょっとトイレ行きたいから。」
「わかった。先に行ってるぞ。」
綴と話したあと私たちは寮の中心に集まった。
「それじゃあ…さっきの時間それぞれ何をしていたかを伝え会おう。まず私たちから。」
春樹は私が話すと同時に机の上に先程教室で見つけたファイルを置いた。
「私・春樹・綴の3人で『1-A』を探索してきた。部屋にあったものはこのファイルだけ。ファイルの内容は今の時代についてだ。小学生の時に習ったことが書いてあった。」
私は中に書いてあった物を読み上げた。
「見つけたものはこれだけかい?」
世宗先輩が私に言ってきた。
「はい、これだけです。他の教室は時間がなかったので調べられませんでした。」
「なに?僕達のこと信じられないの?」
綴が挑発するかのように世宗に言った。
「…ううん。そんな事ないよ。僕は水戸ちゃんのこと信じてるから。安心してね、水戸ちゃん。」
「は…はぁ…」
「何こいつ…水戸のことちゃん付けで呼びやがって……」
綴が横でグチグチと文句を言う。
「おい綴、先輩だぞ。わきまえろ。」
「………」
「どうやら僕は綴くんに嫌われているようだね。まぁ気にしないけれど。」
世宗はニコニコとしながらそう言った。
空気が重い…早く誰かに話をふらなければ…
「じゃあ次は私たちなの。」
乙羽先輩が空気を読んで話し始めてきた。
「私は世宗・ちとせちゃん・雷華ちゃん・かなめくんの5人で行動してたの。
私たちが向かった場所は『3-A』の教室。
場所もここから遠かったからここしか見てない。」
『3-A』は確か私たちが向かった『1-A』とは真逆にある教室だ。
そう考えていると乙羽は机の上にファイルを1つ置いた。
「私たちがみつけたのはこのファイル1つ。今から中身を読む。」
『【力について】
力は人それぞれ違うものを持つ。
遺伝の物もあれば全く関係ない個体も生まれる。
力の発症は幼少期〜12歳までの間で来ることが多く発症当時は力の制御などが出来ないため他人への攻撃・公共物の破壊などは政府によって無罪となる。
その際、トラウマになってしまう子供も少なくないため力が発動した際カウンセリングや力の性能などを詳細にまとめるため「国立病院のOz科」に通うことを義務付けられている。』
「以上なの。水戸さんたちが見つけてきたもの同様、当たり前のことが書かれていたの。でも発症したばかりの時だと危険行為は無罪になる…これは知らなかったの。学校でもそんな説明はされてなかったはずなの。」
「それは事実ですよ。学校で言うとやんちゃな子達がそれを気に暴れてしまう可能性がありますからね。」
春樹がそうつっこんだ。
「春樹くんは知ってたんね。」
「……まぁ。」
ここの2人も少しギスギスしている。
また空気が重くなりそうだ。
「えっと…神希くんたちはなにか見つけた?」
私はとっさに神希に話を振った。
「あ、え、僕達ですか!?」
いきなり聞かれたからなのか神希は焦りを見せた。
「ぼ、僕達は…教室の探索とかではなく学校内の構造を調べるために歩いていました…。なので資料とから見つけられていません…」
「なるほど。教室に入ったりとかはしたのか?」
「いえ、していません…」
「そうか、わかった。ありがとう。」
今回見つけたのは2つのファイル、それも中身はみんなが知っているようなこと…か…
「じゃあ今日はこの辺で…」
「ちょっと待って。」
私が話を終わらせようとすると綴が止めに入ってきた。
「どうした…綴?」
「なにか引っかかることでもあったの〜?つづる〜ん?」
ふわふわと飛びながらちとせも綴にそう言った。
「1つ言いたいことがあるんだけど…」
「この中で『嘘』をついたやつがいるよね?」
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