第16?話『とある主人と使いのお話』

「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。僕は…執事で…あるまじきことを…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……………!」

「大丈夫。大丈夫だから。力を抑えられなくなるのは私も一緒だから。大丈夫。大丈夫だよ。」

「お嬢様…僕は…僕は役立たつです。早く捨ててください。僕はお嬢様のことを…見てはいけないことも見えてしまいます…だから…はやく…」

「大丈夫だから。私はあなたにそばにいて欲しい。だから捨てたりなんてしない。」

「でも僕は…」


「大丈夫。私が未来を変えてあげる…!」


その一言は、僕の胸の中でずっと響いている。

あの時から僕は、彼女に助けられてばかりだ。

だから僕も…あなたを守れる紳士になれるように……


「おはようございます、お嬢様。朝ですよ。」

「ん〜…もう少しだけ…」

「だめですよ。お嬢様は力のせいでいつでも寝てしまうんですから。せめて朝起きる時間と夜寝る時間は一緒でなくては…」

「う〜…神希のケチ。」

「はいはい、ケチですよ僕は。朝食持ってきますからね〜」


僕はお嬢様の事が大好きだ。

お嬢様はいつも人前では気高く、華麗で、みんなから慕われる完璧なお方だ。

でも、僕だけ…知っている。

いつものお嬢様は可愛くておっちょこちょいで、抜けていて……雀のようにちゅんちゅんと構って欲しいアピールをしてくる。

それが、たまらなく愛おしくて、独り占めしたくて……

自分でも重いとわかっていた。だから、お嬢様にはバレないようにお嬢様への愛をぶつけていた。

お嬢様の好きな紅茶を飲んだり、お嬢様の好きな花の香水を付けたり、お嬢様と同じバスボムを使ったり……そこら辺にいる恋する乙女たちと同じようなことをしていた。


でも僕は見てしまった。

お嬢様の…夢を。


ある日のこと、僕は旦那様に頼まれて仕事をしていた。僕はその時お嬢様と離れていたからお嬢様は1人だった。

仕事中に僕はいきなり力が発動してしまい、止まらなくなってしまった。

その時に見てしまったのだ。

お嬢様の本当の気持ちを。


「神希…神希神希…」

お嬢様は1人小さな声で僕の名前を連呼しながら抱き枕をぎゅっとしていた。

「神希…大好き…ずっとそばにいて…大好き…大好きだよ…」

その時のお嬢様は僕にも見せたことがない寝顔で可愛い寝言を言っていた。

力を止められない僕はそれをずっと見てしまった。

こんな可愛いお嬢様を…見られるなんて…

僕の夢を見てくれているのかな…?

可愛い…愛おしい…

でもお嬢様に言ったら…そばにいてくれなくなるかも…

だから僕は今も彼女には言っていない。

僕達はそれぞれ、重い愛を隠しながら接している。


主人と執事という一線をこえないように。

この関係が壊れないように。

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