第15話『それぞれの想い』

《世宗side》

まさかこんなことになるなんて…

数時間前の僕は考えもしなかった。

いきなり始まったゲーム、自分の元に来たカード、倒れてしまった水戸ちゃん

そして


-止められない力-


水戸ちゃんの頭を撫でた時、僕の力は何故か発動してしまった。

そのせいで僕は……


「なぁなぁ世宗、あんた……見たの?」

「え、何を?」

「水戸ちゃんの役。」

乙羽は変なところで勘が鋭い。

今回もきっと勘なのだろう。

「見てないよ。」

「いや、見たやろ?癖、出てるよ。」

「………出てない。」

「いや、出てた。」

僕がぷいとそっぽを向くと乙羽は近くに寄り添ってきた。

「役がなにとは聞かんよ、ただ見てしまったなら…それは事故や。あんまし深く考えなくてええんよ?あんたはすーぐに深く考える癖があるからなぁ…」

溜息をつきつつ、乙羽は僕のことを気にしてくれているようだった。

「ありがとう乙羽。乙羽も不安だろうに…ごめんな。」

「大丈夫や。気にせんといて。うち、ちょっと外にいるから。なんか用があったら部屋に来てな。」

そういうと乙羽は外に出ていった。

僕はズキズキと痛む頭を抑えてベッドに身を投げた。


『探偵』…それが水戸ちゃんの役職だった。

きっと大事なポジションの役なのだろう…

だから顔色があんなに悪くなって…

倒れてしまって……


……


…………


『世宗。あなたの力はね、人に使ってはいけないのよ。』

『どうして??お母さん。』

『それはね人の脳には限界があるからよ。』

『限界?』

『人の脳は限界を超えるとパンクしてしまうんだ。だから絶対に人に使ってはいけないよ。』

『お父さん…わかった。僕、約束する。


人には絶対に、使わないね。』



………


「約束…か…」

僕は自分の手を見つめながら、昔の約束を思い出していた。



《琴梨side》

紫の先輩が倒れて、私たちはそれぞれ個室で時間を過ごすことになった。

今私は、神希と2人で私の部屋にいた。

数分間の沈黙、私は眠気に襲われていた。

「琴梨、眠いなら寝てもいいですよ?」

神希が優しい目をして私に話しかけてきた。

「うん…寝はしないけどちょっと横になりたいかも。」

「それなら……ど、どうです…か…??」

神希は照れくさそうに自分の膝をポンポンとしている。


乙女か。

私は無言で神希の膝に頭を乗せた。

神希の優しい香りは私の眠気をもっと誘った。

「琴梨…僕達これから…どうなるんでしょうか…」

神希は私の頭を撫でながらそう言った。

「……さぁ。わからない。」

私はぽつりと神希に言った。

「琴梨……寝るのが怖いんですか…?」

「……うん。」

「未来を見るのって…とても辛いですよね。」

「……うん。」

「僕はその…今を見ることしか出来ないからそこまで強くは言えませんが…」

神希は私を撫でる手を止めた。

「未来は…変えれます。」

「…え?」

予想外とことを言われてびっくりした私は、神希の方に顔を向けた。

「えっと…その……琴梨が辛い未来を見てしまったとしても…きっと大丈夫です。琴梨なら、未来を変えられるはずです…!僕のことも変えてしまったあなたなら…未来くらいすんなりと変えられるでしょう。」

「……神希。」

「だから大丈夫!その未来だけを見るんじゃなくてほかの未来も見てしまえばいいんです!行動ひとつで未来はすんなりと変わってしまうんですから!」

「………どうしてそこまで言えるの…?」

「え、だって……」

神希は私の頬に手を当て、にっこりとこう言った。

「琴梨は僕にとって、信頼出来る最高のお嬢様ですから!!」



《かなめside》

鏡にうつる人。

それが本物の僕なのか、自分でもわからない。

いつもみんなに見せている長い髪じゃない。

男らしい手、首にある喉仏。

僕はこの姿を見ると怖くなって吐き気がする。

「こんなの…僕じゃない…僕は…みんなに愛されて…可愛くて……違う…違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!」

男らしい手はいつの間にか鏡に殴りかかっていて、真っ赤な物が僕の手から滴り落ちていた。


僕は…僕は…違う…違うんだ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!!!

もう片方の手を鏡にぶつけようとした瞬間、か細い指が僕の手に触れた。


「かなめさん…落ち着いて!」

か細い指の正体は雷華の手だった。

「雷…華…?」

いつもより低い声、気持ちが悪くなる。

「大丈夫。声を出さなくて大丈夫ですよ。怪我してるじゃないですか。もっと自分を大切にしてください。」

雷華は真っ赤な手を見て、そう言った。

「今から手当しますからね。いったん落ち着きましょう。ほら、こっちのベッドに座れますか?」

そう言って雷華は僕を座らせて治療をしてくれた。

「雷華…僕のこと…怖くないの?」

「怖くありませんよ。むしろ、かっこいいって思います。」

「かっこ…いい?可愛いじゃなくて…?」

「はい。どのかなめさんも、とってもかっこいいです。」

「なんで…?」

「確かにもうひとつのかなめさんの姿は可愛らしいです。でもそれは見た目だけ。どの姿のかなめさんも中身はひとつのかなめさんです。みんなに優しくて、守ってくれる。とってもかっこいいかなめさんです。」

「……そっか。」

「ちとせさんも、かなめさんの優しさが大好きなんです。あの子は、友達思いの子を大切にして愛情を持ってくれる子ですからね。」

「…2人はほんと、優しすぎるっていうか…」

「そ、そうでしょうか…?」

雷華は少し顔を赤くして照れくさそうにしていた。

「手の治療、終わりましたよ。気をつけてくださいね。」

「ありがとう。じゃあいつもの姿に戻るよ。」

「はい。私が言ったこと、覚えててくださいね!」


僕は今日もいつもの可愛い僕に戻って上を向いて生きていく。

それが僕の、生き方だから。

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