第5話『自己紹介』
冷たい。
冷たいナニカが僕の頬をつたう。
これは一体なんなのだろう。
この気持ちは一体なんなのだろう。
僕には…よくわからないな。
《水戸side》
目の前に現れた「黒羽」という青年はどうやら神希…我々のことを知っているらしい。
それに彼はうちの学園ではかなり有名な人だった。
「もしかして、『おじいちゃん』で有名な人って…」
「そうそう!俺のことだよ!解峰水戸さん!」
「おじいちゃん」は、うちの学園で有名な多分世界一のお節介野郎だ。
重そうな荷物を運んでいる女子生徒を助けに、2階から外に飛び降りて着地、そのまま荷物を全て一人で運び…
好きな女の子に告白しようとしている男子生徒を応援するべく、背中にはバスドラム、手にはシンバル、首にはホイッスル、上からハーモニカを吊るし一人オーケストラで励ました(?)と言われている…
素直にいえばただの変人だ。
ただ、彼は本当に優しく「変人」という名は似合わない。それで着いたあだ名が「おじいちゃん」…らしい。
「その…なぜあなたがこんな所に…?それに、さっきの水は一体…」
恐る恐る尋ねる水戸に世宗は慌てて答えた。
「あぁ!それね!さっきはごめんね!実は、僕の他にもう一人いて…ほら!乙羽!挨拶して!」
少し横にずれた世宗の後ろから小さな女の子が顔を出した。
「あの…ごめんなさい…なの…。わざとじゃないの。誰か来たから怖くて…攻撃しちゃったの…。」
弱々しい高い声、愛らしい見た目をした少女がうるうるとした瞳をして綴に謝る。
「あ、いや、大丈夫ですよ!えっと…お名前聞いてもいいですか?」
綴…お前絶対今心の中で「罪悪感半端ない」って思ってるだろ…
そう考えていると少女は慌てて前に出てきた。
「えっと、上白 乙羽 (カミシロ オトハ)や…どうぞごひいきに…」
…ん?
「へ?」
「あっ」
綴のきょとんとした声に乙羽は直ぐに反応した。
途端、彼女の顔が真っ赤になり世宗の後ろに隠れた。
「あ〜実はこの子関西出身でね。たまに関西弁が出ちゃうんだけど、ちょっと特殊な関西弁だから言わないようにしてるんだよね。たまに出ちゃうけど。」
「…なの。」
「…なの…」
乙羽と綴がふんわりとした謎の会話を繰り広げていると横から世宗が説明をしてきた。
「えっと…おふたりはどうしてここにいるのかってわかりますか?私たち、いつの間にかここにいて…」
念の為2人に事情を聞いてみることにした。
この2人のどちらかに…犯人がいるかもしれない…が。
「実は俺達もわからないんだよね。いつの間にか廊下のど真ん中に倒れてて…それで眠っている乙羽を見つけてここに逃げてきたって感じかな。ね?乙羽?」
「そうなの…」
「なるほど…じゃあお2人もどうしてここにいるのかわからない感じですね。」
「お2人もってことは…解峰たちもわからない感じ?」
「はい。って、よくご存知でしたね私の名前…」
「まぁね!俺全校生徒の名前把握してるから!びしょ濡れにさせちゃったのが綴くん、横の爽やかイケメンくんが春樹くん、そして神希くん、で今ぐっすり眠っているのが睡蓮さん…だよね!」
「はい!そうです!実は保健室に来た理由…琴梨を寝かせるためなんですよ…」
ぐっすりと寝ている琴梨の方をちらっと見た神希は優しい顔をしながらそう言った。
「なるほどね…!ベッドあるしとりあえずその子を寝かせて話し合いでもしようか。一旦この状況を整理しないといけないしね。それに…」
世宗は普段より低い声で私たちにこう告げた。
「僕達の他に、誰かいるみたいだしね。」
《???side》
冷たい。
冷たいナニカが僕の頬をつたう。
これは一体なんなのだろう。
この気持ちは一体なんなのだろう。
心がチクチクする。
心臓がどくどくと大きな音を鳴らしている。
冷たいナニカは止まらない。
床に落ちたソレは、赤い絵の具に溶けていく。
ぽたぽたと、音をたてながら。
「ごめんね…ごめんね…」
僕の口からはその言葉しか出てこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます