Day6「微笑みが悲しい」/双子
教室の白いカーテンの内側に隠れて、静かに寧々の顔を見る。けれどどちらも口を開くことはできなかった。昨日の夕方から私たちはずっとこんな感じだ。
それは些細な言い合いだった。言い合いにもなっていなかったかもしれない。いつものように話をしていて、この前第四区画であった事件を話したら、寧々が言ったのだ。
「由真はいつもそうやって一人で突っ走るじゃん」
寧々は私を心配してくれているのはわかっている。けれどその心配がそのときは干渉に感じて、私は大人気なく黙り込んでしまったのだ。だって寧々を呼ばなかったのは、寧々を巻き込みたくなかったから。普段から目をつけられている私が動いた方がいいと思ったからだ。寧々のわからずや、なんて子供じみた怒り方をしてしまったのは私の方。本当は早く謝りたいのに、なかなか言葉が出てこない。
今まで、こんな風に誰かとぶつかったことなんてなかったから。梨杏とも或果とも喧嘩らしい喧嘩をしたことはなくて、それは多分私がずっと流されてきたからだと思う。自分の感情に戸惑いながらも、本当はどうすべきかなんてわかっているのだ。
「……由真」
けれど寧々も、私に何か言いかけてやめることを繰り返していた。お互いにもう怒ってなんかない。お互いに心配していただけで、それが行き違っただけなのに、それをうまく言葉にすることができない。
「あのさ」
「あのね」
意を決して発した言葉が綺麗に重なって、私たちは顔を見合わせて思わず笑ってしまった。双子みたいに重なる、苦笑混じりの笑顔。
「いいよ、由真から言って」
「いや、寧々からでいいよ」
「由真の方がちょっと早かったよ」
「寧々でしょ。だって先に話し始めたの寧々じゃん」
このまま永遠に続きそうな譲り合い。ずっと続けててもいいけれど、その前にちゃんと言わなきゃいけない。
「……心配してくれてありがと、寧々」
寧々が少し首を傾げて微笑む。長い髪がその動きに合わせて揺れた。廊下から吹き込む風が私たちを隠すカーテンを揺らして、窓の外へと渡っていく。
机の上に置かれた寧々の手に、そっと自分の指を絡める。寧々の温もりを確かに感じた。
「ずるいよ、由真」
寧々が優しく笑う。
「ありがとうとか、言われると思わなかったし……」
「……だって、寧々は心配してくれたんでしょ?」
「由真だってそうでしょ?」
私は頷く。白いカーテンに隠された空間で、寧々が私の頬に手を伸ばした。何故かその目の奥が濡れているような気がしたけれど、私は何も言わなかった。
「――大好きだよ、由真」
カーテンが翻って、私たちの姿が露わになる。けれど教室にいるクラスメイトたちは誰も無関心で、私たちのことに気付いている人なんて一人もいなかった。
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