Day3「風に吹かれても」/落葉

 ――木から離れた枯葉が地面に落ちるまでの、短くて長い刹那。それを繰り返すのがこの世界。地面に落ちる前に引き戻されて、人々は永遠に空中を彷徨っている。けれど多くの人はそれを喜んで享受している。曖昧なままで生きていくことだって悪くはない。そうは思わないか?

「わからない。私には、まだ」

 ――まだわからないのに、それなのに君は立ち上がるんだね? あったかもしれない幸福な未来を捨てて、君を好いている人を傷つけても。

「曖昧なままでいいなら、わからないまま立ち上がったっていいんじゃないの?」

 ――ナギサ寧々ネネ。君は少し黙っていてくれないかな。私は柊由真に尋ねているのだよ。

「……いつかは私も死ぬ。愛だっていつか終わる。それを不自然に堰き止めたところで、その幸せはまやかしじゃないの?」

 ――有限だから美しい、というのはかつて君たちの祖先が属していた国の美学だね。桜は散るから美しい。そのあとで緑の葉が色づいてやがて落ちるのも美しいと。その刹那を愛でようという気持ちは理解しているつもりだよ。でも、曖昧でいるのはその反対の、停滞ではないのかな?

「全然わかってない。……私はただ、自分の気持ちに名前なんかつけられたくないだけだ」

 ――ヒイラギ由真ユマ。君は孤高で高潔かもしれないが、多くの人間はそれについていけないだろう。今は渚寧々や亘理ワタリ梨杏なんかがいるが、彼女たちは君より早く大人になって、やがて君から離れていくだろう。

「私は……!」

 ――黙っていてくれと言ったはずだよ、渚寧々。私は君の言葉を求めているんだ、柊由真。


「いつか終わることなんてわかってる。いつか終わるから、きっと今は、傍にいられるんだ」

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