第三章学園生活は最高デース
3-1(土)旅行の始まりデース
「と言う事で温泉デース!」
リンダはお父さんの車から降りて古びた旅館の前で誰に向かって言っているのか声高々に宣言する。
まあ、せっかくだからと言って家族旅行で一泊二日の温泉旅行に来た訳だけど、ここってすごい所だわね?
何が凄いってこんな山奥にいきなりぽっかりと町が現れ中心部には「湯畑」と呼ばれる源泉が湧き出てへんてこな木製の水路みたいなのに流れ込んで最後には一番下でお湯の滝になっている。
ここは上州草津温泉と言う所。
「草津」は「くさつ」って読むのだけど地元の人は「くさづ」っていうらしい。
ここに来る途中小休憩で立ち寄ったコンビニの人に目的地の道を確認したらそう言っていて違和感を覚えたものだ。
北関東の群馬県にある秘境の温泉のはずなんだけど‥‥‥
あちらこちらから外国人の話し声が聞こえてくる。
お兄ちゃんの話ではもともと有名な温泉街で近年は外国人、特にアジア系の外国人にとても人気があるそうだ。
「由紀恵、ちょっと手伝ってくれ」
荷物を運びながらお兄ちゃんがあたしを呼ぶ。
車は旅館の人が駐車場にまで運んでくれるらしいから荷物を下ろすのに人手が必要のようだ。
私はさっそく仁王立ちしていて明後日の方向を見ているリンダを引っ張って荷物を取りに行く。
そしてお母さんが旅館に入ってチェックインをする間にリビングでパンフレットを見てみる。
「なになに、日本でもかなり酸度の高い温泉で湯治に昔から使われていいる?」
「そうそう、ここの温泉のお湯に十円玉浸すと奇麗になるらしいよ。あとでやってみようか?」
「由紀恵、この温泉変な臭いしますデース」
パンフレットを見ると硫黄のせいで卵の腐ったような匂いがするそうだ。
確かにちょっと臭いのだけどしばらくすると慣れてしまったかのようで平気になってしまう。
それはリンダも同じらしくしばらくすると平然としていた。
「さあ、お部屋に案内してくれるって。行きましょう」
お母さんがチェックインを終えて女中さんが部屋まで案内してくれる。
荷物を一緒に運んでくれるので私たちはその後を付いて行く。
そしてこの旅館、かなり古いらしく「奈良旅館」と言う名前の旅館。
なので案内された部屋は畳の大部屋。
「OH-! ワンダフル! これぞ古き良き日本デース!!」
「確かに和風だわね」
「畳部屋しか空いて無かったのよ。リンダちゃん一緒に畳でお布団だけど大丈夫?」
「ママさん、勿論デース! 由紀恵一緒なら私何処でも眠れるデース!」
いや、まさかみんなで寝るこの部屋で襲ってこないでしょうね?
思わず不安になる私。
しかしそんな事は一切気にせず女中さんの説明を聞いてからリンダはさっそく窓の外の景色を見る。
のだが‥‥‥
「あまり外が良く見えないデース」
「とりあえずパンフレットに書かれた湯畑でも見にこうか?」
お兄ちゃんがそう言って立ち上がる。
お父さんは運転が疲れたとかで部屋でお母さんと一緒に休んでいるらしい。
と言うより早いところ温泉に入ってみたいらしい。
私も温泉に入りたいけどお兄ちゃんに誘われたのだから先に観光してみるのも悪くない。
私たちはさっそく観光に繰り出すのだった。
* * *
「由紀恵『湯もみ』って何ですかデース?」
大量に流れる温泉の池を見ながらリンダが聞いてくる。
あたしはさっそくパンフレットを見ながら説明をする。
「どうら温泉の温度が高いから板で掻き回して温度を下げる事らしいわよ」
「ふう、良かったデース、湯もみと言うからお湯の中で由紀恵を揉まなければいけないかと思いましたデース」
何を揉む気よっ!?
こいつ、流石にあれ以来少しは慎重になったようだけど相変わらずだ。
一体どこでそんな変な知識を身に着けてくるのやら‥‥‥
私たちはこの湯畑の周りを見て回ったり無料の足湯に浸かって十円玉が本当に色が変わって奇麗になるのを見たり、路上でお饅頭を試食させられたりとそこそこ楽しんでいた。
「さてと、そろそろ帰ろうか? 夕食の時間になるし温泉にも入りたいしね」
お兄ちゃんにそう言われあたしたちは旅館に戻る。
お父さんたちは既に温泉に行ってきたようで浴衣姿で部屋でくつろいでいた。
「夕食にはまだ時間があるから温泉に行ってきなさい。いい湯だったよ」
お父さんはだいぶリラックスしてテレビを見ながらお茶をすすっていた。
私は浴衣と着替え、タオルなどを持って温泉に行こうとするとリンダが首をかしげている。
「由紀恵、何故和服持って行くですかデース?」
「ああ、こう言った温泉ではこの浴衣姿で過すのが普通なのよ」
リンダは渡された浴衣のサイズを見てあたしに聞いてくる。
「由紀恵と同じサイズの服で私着れるのデースか?」
身長的にはリンダは私とあまり変わらない。
だからこのSサイズの浴衣で間に合うはずだけど?
「大丈夫よ、浴衣は多少のサイズ違いでも着れるから」
「でも由紀恵と私サイズ違い過ぎますデース?」
そう言ってリンダは自分の胸を持ち上げる。
「当てつけか!?それは私に対する当てつけかぁッ!?」
思わず叫んでしまう私だったのだ。
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