親
先輩が事故に遭い、病院に運ばれたというニュースが報道されてから、初めての週末。
「お、これもいいな」
言って、それを掴むとカートの上に置いているカゴの中に入れていく。
おれは親父と共にこの前の約束通り、大型の家具などを売っている店に来ていた。
週末、そして年末ということもあってか、店はかなり混んでいた。
しかし、まさか家具を買いに来るとは思わなかった。
「なんで、またここに来たんだよ?」
「なんでって、そりゃ食器やら家具やら年数が経って、古くなってきたからな。良い機会だと思ってな」
「ふーん……」
まぁ確かに、食器はかなり使ってるよな。
おれがまだ小さい頃からある食器がほとんどだし。
家具は……特に思いつかないな。
何か取り替えたいのってあったっけ。
「それでお前の方はどうなんだ?」
「え?」
「ニュースで報道されてただろう」
「あ、ああ……」
ニュースで報道という言葉だけで親父が何を言いたいのかわかる。
部長が事故に遭ったのは、おれがあの日、帰宅してすぐのことだったらしい。
時刻的には七時頃。
横断歩道を歩いている途中に車に撥ねられたそうだ。
しかし、目撃者の話では、自分から車に撥ねられに行ったように見えたそうだ。
おれがあの日、部長に話をしに行った結果、こうなってしまったのではないか。
そう思うと、おれの心は深く深く沈んでいくような気がしてならない。
「お前が彼に何をどう言ったのかは、わからないが、少なくとも間違ったことはしていないんじゃないか?」
「そう……かな……」
「そうさ。なんたって、俺の息子だからな。きっと相手を責め立てるような言い方はしてないと信じている。例え、何を言ったところで結果は変わらなかったはずだ。それに何の行動も起こさなければ、彼の愚行が止まることはなかった。他人に何かを言われたくらいで事故を起こすほど、彼にの心は弱かったということだろう」
「……」
「だから、もしとか、こうだったらとかの、たらればの考えはやめておけ。お前が彼に話をしに行ったから、これから先、被害に遭う人間はいなくなった。そして、お前の彼女も守られた。そうだろう?」
「そう……だな……」
「悩んだところで仕方ない。それにもうすぐクリスマスだ。そんな辛気臭い顔はとっととやめて、愛しの彼女と過ごせるクリスマスを楽しめ。青春ってのは思ってるより、短いからな」
「うん……ありがとう、親父」
「何、いいんだ、気にすんな」
はははと笑いながら、親父は通路を歩いて行った。
親の偉大さというのを深く感じながら、おれは親父の後を追うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます