終末

 去年の入学式の時のことだ。

 上級生が入学したての美香にしつこく絡んだそうだ。

 もちろん、美香は当時から氷対応。

 激しく突っぱねたそうだが、相手も中々引かず、それを助けたのが部長らしい。

 しかし、美香は何も言わずにその場を去ったらしい。


 それだけではなかった。


 数ヶ月経ってから、今度は美香が街でナンパされていたらしい。それを助けたのも部長。


 他にもいくつか出来事はあったが、共通しているのは部長が近くにいて、助けたこと。

 あからさまな出来レースだ。

 最初の上級生の絡みは偶然だろうが、それ以外はこの人が仕組んだ事に違いない。


「あんたは美香を手に入れたかったんだろ?自分の隣にふさわしい人間だとでも思ったのか、わからないけど。だからこそ、執拗に美香を追い込んだんだ」


「……」


 しかし、美香は本質的に相手の内面を見ることができる。稲元の時もそうだった。

 だからこそ、この人に何も言わなかったんじゃないのだろうか。


「中学の時もそうやって、同級生の女の子を事故に合わせたんだよな。その時からあんたの内面には化け物が住んでいたんだ」


「……」


「……でも、本当はこんな話、したくないんだ。おれはあんたを尊敬してた。部員のために頭を下げて、生き生きと新聞を作って、本当に楽しそうにしているのを見て、こんな部活なら入ってみたいなって、そう思えたんだ。だからこそ、手伝いだって続けることができた」


「尊敬か……」


「もうこれ以上、美香に何かをするのもやめてくれ。お願いです」


 おれは静かに頭を下げた。


「わかった……もう何もしない。約束しよう」


「……ありがとうございます」


「彼女はいい人を選んだな……はぁ……」


 部長は大きなため息を吐いた。


「僕は何をやってたんだろうな」


「……」


「なんかもう……」


 そこまで言って、部長は口を閉ざした。

 その時の感じがやけに奇妙でおれは一瞬、目が離せなかった。


 そして、帰ってすぐにだ。

 部長が事故にあったと知ったのは。

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