勝負は。

 一限目が終わった休み時間。

 おれは二階の渡り廊下にきていた。


「お待たせ」


 おれが廊下から外に目を向けていると、そんな声が横から聞こえてきた。


「ああ、悪いな。突然」


 やってきたのは香澄。

 もちろん、ここにきた用件は部長に関することだ。


「いや、いいよ。それより、本当に行くの?」


 少し心配そうな様子の香澄。

 まぁ当然といえば当然だよな。


「ああ、いい加減、はっきりさせないとな。それに香澄にだって、迷惑かけちゃうだろ?ずっとおれ達のそばにいるなんて」


「いや、まぁそれが仕事みたいなもんだからさ……」


 言って、苦笑する。


「にしても、おれと同じ年齢なのにすごいよな、潜入っていうかさ。まるでスパイ映画だよ」


「ただ、単に転校してきただけだよ。後は多少、身体を鍛えておくだけかな。海斗もできるようになるって」


「簡単に言ってくれるよ。それよりさ、香澄って本当に男なんだよな……?」


「え、なんで?」


「いや、だって……その、なんとなくだけど……」


「どっちだろうね」


 言って、香澄はニカっと笑った。

 本当はこの前、おれの腕を掴んだ時にやけに柔らかい感触がしたからなんだけど……


「それより、はい。これ住所」


「あ、ああ……ありがとう」


「気をつけてね。僕は美香ちゃんの側にいることにするから。せいぜい、殺されないようにね」


「殺されるって……縁起でもないから、やめてくれよ」


 そう言ってから、おれは香澄の差し出した紙切れを受け取り、中身に目を通した。


「結構遠いな……」


 書いてある住所には、ここから電車で一時間以上はかかりそうだ。


「でも地方じゃなくてよかったね」


「まぁそうだな。五限が終わったら、学校出るから後は頼んだ」


「うん、任せて」


 そうして、おれはもらった紙切れをポケットにしまいながら、その場から離れた。


 今日の午後、全てが終わる。

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