全ては繋がる

 翌日の放課後。

 おれは名刺に書かれた住所の前にやってきた。


 雑居ビルの中にあるのか……

 おれの目の前には古びたビルが建っていた。

 このビルの三階にその事務所はあるらしい。

 美香には、まだ話せない、何より不安にさせたくないので、家族で食事の約束があると言っておいた。

 これなら一緒に居なくても、放課後ここに来ても、自然な理由だと思った。

 それに香澄も学校に来ていなかった。

 何にせよ、話をきちんと聞かないと納得できない。


 おれは階段を上がり、そして事務所のドアを開けた。

 そこには長机を挟むようにソファがあって、その奥に大きめの机が置いてあった。


「あ、来たな」


 そう言って、奥から現れる人物。

 てっきり香澄だと思っていたのだが、予想外の人物だった。


「い、稲元……?」


「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」


 言って、軽く微笑む。


「な、なんでここに……?」


「ああ、ここ、俺の親父の事務所なんだよ。びっくりするよな」


「そ、そりゃな……」


 探偵事務所なんて一生縁が無さそうだからな……

 それに稲元がいるなんて思ってなかったし……


「ああ、それと一応、僕もいるからね」


 ドアがガチャリと開いたかと思ったら、今度は香澄も現れた。


「か、香澄……もしかして二人とも、知り合いなのか……?」


「知り合いというか、仕事仲間というか。僕はここの見習いって感じかな」


「例の部長の件を聞いてから、親父に頼んで学校に潜入してもらったんだ。そうするのが、一番自然だからな」


「せ、潜入……」


 いよいよ現実味がなくなってきたぞ……


「だから、変な時期に転校してきたんだよ」


「それより、単刀直入にいうぞ。あの部長、中々やばい」


「や、やばいって、それは前から知ってただろ……?」


「それ以上だよ。とにかく座って、これを見てくれ」


 そう言ってから、稲元はソファに座って、新聞の記事を長机の上に置いた。おれも慌てて、向かい合うようにソファに座り、その記事に目を通した。


「中3の女の子、車に撥ねられ、重体……?」


「三年前の記事だ。下校途中の女の子が突然意識朦朧になって、横断歩道に飛び出し、直進してきた車に撥ねられたらしい。幸いにも、一命は取り留めたが……」


「それを部長が……?」


 まさか、そんなことまでやるなんて……

 第一どうやって意識朦朧になんかさせるんだ。魔法でも使ったっていうのか。

 当時は中学生。今よりも力はない。無理に決まっている。おれはそう思った。


「その女の子は部長から告白をされた直後だったらしい。その告白を断った、その日に起きた事故だ。いや、事件とも言うべきかな」


 淡々と言う稲元。いつもの雰囲気はどこにも無かった。


「そ、そんなことできるわけだろ……?」


「部長の親父は医者らしい。そういった類の薬なら簡単にくすねることができるだろう」


「だからって、人を殺すような真似……」


「そう。そこなんだよ。異常なんだ。普段は善人ぶっているが、その皮の下には恐ろしい何かが潜んでいる」


「……」


「それより気付かないか?」


「え……?」


「松原さんの時にも似たようなことがあっただろう?お前の目の前で車に撥ねられそうになったんだよな、確か」


「え……いや、あの時は車が猛スピードでやってきただけで、美香が意識朦朧になんて……」


 いや、待てよ……

 あの事故は確か運転手が突然の発作が起きて、意識朦朧になったってニュースで言ってたよな……


「ま、さか……」


「その車の運転手は車に乗る前に喫茶店に寄ってたらしい。いつもそこでコーヒーを飲んでから、会社に戻るそうだ。そして、その日部長は具合が悪いからと早退したらしい」


「……」


 おれは全てが繋がっていたことに気づき、呆然とした。気分な悪くなりそうだった。

 あの事故も部長が仕掛けたのか……?

 美香を……殺すために……?


「しかし、残念ながらもう証拠はない。今更部長に罪を認めさせることはできない。だから、万が一を想定して、香澄にお前たちを見張らせたんだ。いざとなれば、守ってもらうために」


「そう……だったのか……」


「いきなり、色々言われて頭も混乱していると思う。また整理ができたら、ここにきてくれ。まだ話すことはあるんだ」


「わかった……」


 半ば意識がどこかに飛んでしまいそうな気分だった。

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