一夜明けて

 翌日の日曜日。朝の十時過ぎ。


「ふわぁーあ……」


 おれは大きなあくびをしながら、ソファの上に座る。カーペットとはいえ、床の上で寝ていたので、どうも身体が痛い。

 美香は朝のうちに帰っていった。

 そして、今日はお互い疲れているし、休養にしようと言うことになった。

 とはいえ、別れる際に少し名残惜しそうにしていたので、おれも引き留めそうになってしまった。これが恋人同士ってやつか……

 中々の破壊力だぜ……


 しかし、まぁ今日はゆっくりしよう。

 明日から学校だし、昨日の疲れもまだある。


 おれはソファの上に寝そべりながら、パソコンを起動させた後、ケトルでお湯を沸かし、コーヒーを一つ入れた後、ノートパソコンの前に帰ってくる。

 さて、安定のネットサーフィンでもするか……

 それと後で美香に電話でもしようかな。

 声が聞きたいし……










 ◆












「んー……」


 ソファに座ったまま、ぐっと背を伸ばす。

 そろそろ休憩にするか。それに腹もだいぶ減ってきた。時計を見ると既に昼一時を過ぎていた。

 ネットサーフィンに夢中で結局、コーヒーニ杯と板チョコしか食べてない。

 おれはノートパソコンを一旦閉じると、台所へ向かい、冷蔵庫を開けた。


「なんもねぇな……」


 だが、残念なことに冷蔵庫の中にはソーセージと卵に調味料くらいしかなかった。

 そういや、金曜日に色々使い切ったんだっけ……まいったな。

 仕方ない。なんか買いに行くか。

 いや、でもめんどくさいしな……

 なんかのデリバリーでも取るか……


 おれはテーブルの上に置いていた携帯を手に取った。


「ん?」


 すると、メッセージが三件きていた。差出人は全て香澄からだった。

 おいおい、休日に何の用だ?

 と思ったのだが、大切なことを忘れていた。

 あ、やばい……

 今日、ボルダリングの日じゃん……

 行かないって連絡するの忘れてた……

 血の気が引くのを感じつつ、おれは慌ててメッセージを開いた。


「こんにちは。今日は何時に待ち合わせしますか?連絡下さい」


 一件目の受信が昼の十二時前。


「こんにちは。まだ寝てますか?このメッセージ見たら、連絡下さい」


 二件目の受信がその約三十分後。


「本当は起きてるんでしょ?めんどくさいから返信しないんでしょ。どうなの」


 三件目の受信が一時ちょうど。


 これは……かなりまずいな……

 絶対怒ってるわ……

 そして、今更返信しても大丈夫なものか……

 いやいや、その前に電話だ……!


 おれは急いで通話ボタンを押した。

 すると、それと同時にピンポーンと家のチャイムが鳴った。その音にビクッと反応してしまう。


 全く、驚かせんなよ……心臓、止まっちゃうから。

 というか、誰だよ……

 おれは通話ボタンを一度切ると携帯をテーブルの上に置き、玄関へと向かった。


「なんだ、いるんじゃん」


 すると、まさかのそこには香澄がいた。













 ♦︎











 とりあえず外に居させるわけにもいかず、香澄を家に上げる。

 なのに、何故かおれは正座させられていた。香澄はソファに座り、ヒーターに当たっていて、温もっている。対して、こちらはフローリングが異常に冷たく、このままでは足が凍傷になってしまいそうだ。


「それでなんで無視したの?」


「いや、だから無視っていうか気づかなかっただけなんだって……それに携帯、手元に無かったし……」


 おれはなんとか弁解を試みる。

 確かに携帯はテーブルの上に置いていた。

 ネットサーフィンに夢中でバイブに気づかなかったようだ。


「気付かない……ねぇ。すごく便利な言葉だよね、それ。でも、まぁ悪気はなかったみたいだし、今回は許してあげるよ」


 香澄はため息を吐きながら、やれやれと言った様子で肩をすくめる。

 とりあえず、助かったか……


「ほんと悪かったよ……昨日は色々あってさ……」


 言いながら、おれは台所に向かった。

 とりあえずコーヒーでも出すか……


「美香ちゃんとお楽しみだったんでしょ?イチャイチャしてきたの?」


「イチャイチャって……まぁほどよくな……」


 ケトルで沸かしたお湯をカップに注ぎながら、言う。


「さらりと言うところが惚気だね……」


 香澄は呆れたような表情で言った。


「それより、今日はどうするの?ってまぁ休むよね。この感じだと」


「あ、ああ……」


 おれはコーヒーを二人分作り、それを運んだ。


「しかし、まぁこのまま帰るのもつまんないしな……」


 香澄はそう呟いた。


「あ、じゃあ買い物に付き合ってくれないか?家に食料全くなくってさ」


 出かけるつもりはなかったけど、どのみち買い物には行かなきゃいけないしな。


「買い物か……うん、まぁいいよ。帰りにパフェ食べに行こうね。クレープでもいいよ」


「あ、うん、わかった……」


「あ、それとその姿で行かないでね?」


 香澄はクギを指すようにいった。

 というのも、おれはジャージ姿だったからだ。


 一方の香澄はチェックのシャツにカーディガン、下はタイツにスカート、コートはダッフルコートを羽織っている。

 まぁオシャレだ。完全に女子の服装だけど、それが違和感なく似合っているのがびっくりする。


「それはもちろん。じゃあ着替えてくるから待っててくれ。あ、それと買い物前に昼飯食べたいんだけど、いいか?」


「あ、うん。じゃあそこでパフェ食べようかな」


「ありがとう。じゃあ待っててくれ」


 そう言って、おれは洗面所へ向かい、着替えることにした。

 なんとなくだけど、香澄の前で着替えるのはすごく……恥ずかしい感じがする。

 なんでだろう……

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