エクストラ
時刻は昼の三時過ぎ。
おれ達は休憩のため、パーク中にある喫茶店に訪れていた。
ここではケーキやお茶を提供している他、小さなステージがあり、そこで一回十分ほどのショーが公演されている。
子供向けのショーなので、大人はあまりいなかったが、それがかえってゆっくりと休むことのできる空間を作っているように感じた。
「じゃあ、コーヒー二つでいいよな?」
メニュー表を前にして、おれはそう尋ねた。
「うーん、なんかポテトとかほしいな……」
しかし、言葉を聞いて、おれは少し動きを止めた。
ポテト……確実にあーんされるやつじゃないか……
このままではポップコーンの二の舞になってしまう……
しかも、こんな子供達&親御さんだらけの空間でそんなことをしてしまったら、確実にからかわれるに決まってる……
子供というのは純粋無垢だからな……
なんとしてもそれだけは避けなければ。
「ポテトより、ケーキとかの方がいいんじゃないか?」
「お昼にケーキ食べたじゃん。しかも、そこそこ大きかったし。今はポテトの気分なの」
「……わかったよ……」
これ以上、言うとこちらの意図が読まれそうなので、おれは仕方なく、注文するためにレジへと向かった。
あーんされないことを祈るか……
♦︎
「……」
「……」
そっとドリンクの入ったカップを差し出す。
それを一気に飲み干し、再びショーの方に目を向ける。
「これは……僕の夢なんだ!」
その言葉と共に色とりどりの照明が目まぐるしく、辺りに炸裂し、ついに
再び楽しい夢を見ることができるようになり、エンディング。
ショーが終わると周りの人達からは、面白かったねー。などと声が聞こえてくる。
そんな中、一人放心状態の人物がいた。
「まいった……めちゃくちゃ面白かった……」
「それはよかったね……」
子供向けのショーだからって、少し舐めてたが、まさかこんな面白いとは……
十分のショーがそれぞれ前半、後半となっており、その面白さに思わず、二回ずつ見てしまった。
ポテトであーんとかする時間すらなかった。
「海斗ってこういうの好きなんだね……」
少し意外そうに言う美香。
「いや、まさか自分でもこんな風になるなんて、思ってなかったよ。でも面白かったよな?」
「うん。確かに面白かったよ。クリスマスの時もまたこよっか?」
「ああ、もちろん。休憩にはもってこいだしな」
即答したおれはすっかりしなしなになってしまったポテトをいくつか口に運んだ。
「さて、そろそろ行くか」
時刻は既に夕方の五時を過ぎていた。
そろそろ次のアトラクションに向かわないと晩ご飯を予約しているレストランの時間が来てしまう。
「そうだね」
そうして、おれ達はトレーを片付けた後、喫茶店から出ていくのだった。
♦︎
「大変申し訳ございません……一時的に運営見合わせとさせて頂きます……尚、お並びのお客様全員にエクストラパスをお渡しいたします……」
アナウンスと共に周りのスタッフの人達の誘導により、アトラクションの外に出てことになる。
「残念だね……」
「ああ、まぁ機械で動いてるから仕方ないよな。それよりさ、どれにでも使えるファストパスもらったからクリスマスの時に使おうぜ。期限はないって言うし」
おれ達は遊覧型のアトラクションに並んだものの、途中から列が動かなくなってしまい、やがて不具合のため、メンテナンス作業を行う必要があるとのことだった。
「そうだね。こういう時、海斗がぐちぐち言わない性格でよかった」
言いながら、さりげなくおれの手を取ってくる美香。そして、ギュッと握る。
おれも、もちろん握り返した。
「言っても仕方ないからな。それより、レストランに行こうぜ」
なんだかんだでアトラクションから出るまで三十分は並んでいて、そろそろ予約の時間になるところだ。
「うん」
そうして、おれ達はレストランへと向かうのだった。
そして、この時もらったチケットが後に大きく役立つことになるとはまだ知る由もなかった。
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