クマ
「どれにしよっかな……」
「……」
レストランで食事を終えたおれ達は予定通り、お土産屋さんに入り、色々と物色している。のだが……
「ねぇ、どれがいいかな?」
こちらに視線を向けてくる。
「どれも同じに見える……」
「同じじゃないよー!」
おれの言葉を聞いた美香はその小さな手でポカポカと殴ってくる。
全然痛くない。むしろ心地よいくらいだ。
もっとやってくれとさえ思える。
いや、その発言は完全にあっち系の趣味に聞こえるからやめておこう。
「この子は鼻が少しおっきいし、この子は目が……ああ、もう選べない……」
かれこれ、二十分はこうしてるな……
美香はお土産屋さんに入ってから、熊のぬいぐるみに目を奪われ、どのぬいぐるみが良いか悩んでいるのだ。
元々、人気の高い熊のぬいぐるみ。それがクリスマス限定のコスチュームを着ており、なんともかわいらしいのだが、正直、どれも同じ顔に見える。
しかし、美香には全部が別々の顔立ちに見えるそうだ。
美香以外にも、ものすごく吟味しているお客さんがいた。
「え、あ、この子もいいかも……」
美香の口から先ほどから同じセリフが聞こえてくる。
デジャブかな。
最初は二体で迷っていたのに、今や十体に増えている。
この調子だと無数に増えていくんじゃないだろうか。それは非常に困る。
全員買うなんて言い出さないよな……?
「なぁ、美香、そろそろ……」
時間も惜しいし、そろそろ別のお土産屋さんにも行きたい。アトラクションのファストパスも発券したい。
おれはたまらず、この場から動こうと促した。
「ちょっと待って……!」
真剣な表情でぬいぐるみを選別する美香。
ものすごい集中力だ。
というか、目力か。
横にいるだけでひしひしと伝わってくる。
「うん……!この子にする!」
そして、程なくして美香は一体のぬいぐるみを選んだ。
よかった、やっと決まった。そう思ってしまったのは仕方がないと思う。
「よし、この子の名前は海斗にしよう」
言って、胸元の辺りでギュッと抱きしめる。
「え、な、なんでだよ……?」
「だって、そうすれば海斗と離れていても、一緒に居られるような気がするから……」
「……」
少し照れながら言う美香。
今、おれの心臓は完全に撃ち抜かれた、
やばい。嬉しい。いや、嬉しいなんてもんじゃない。爆発してどっかに飛んでってしまいそうなくらい、気持ちが炸裂している。
天にも登る気持ちってこういうことを言うのかな……
「じゃあ、おれも買おうかな……」
そう言って、おれは近くにあった、別の熊のぬいぐるみを手に取った。
ちなみに美香が買うのは男の子の熊。
おれはその子のガールフレンドの女の子を手に取った。
「この子は美香って名前にするよ」
「海斗……うん、そうして……」
こうして、おれ達はそれぞれ熊のぬいぐるみを買うことにした。
離れていてもずっと美香の側にいられる。
そのおかげで、いつも気持ちが通じているよつに感じてしまうのは、惚気なんだろうか。
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