イチャイチャ

 美香と手を繋ぎ、いよいよ中へと入る。

 そこには大勢の人がいて、カップル、男性や女性のグループ、男女のグループ、家族連れなど様々だった。

 アトラクションに向かうために走ったり、お土産を見たり、風船を買ったり、楽しそうにしている。


「さて、まずはあそこのアトラクションだよな」


 おれは遠巻きに見えるアトラクションを指差す。

 人気アトラクションでファストパスを出すなら、今しかない。

 しかし、美香はゆっくりと歩くだけで走って取りに行く様子は見られない。


「うん、でももう少しこのままがいいかな……」


 言って、繋いでいる手をギュッと強く握ってくる。


「せっかく、ほら……彼氏彼女になったわけだし……」


「お、おお……」


 少し頬を赤らめているその表情におれは心臓が止まりそうになった。

 なんだよ……かわいすぎかよ……

 こんなかわいい子が彼女かよ……

 やばすぎるだろ。

 死ぬかと思ったわ。


「まぁ彼氏になった以上、きちんとエスコートしてね」


「あ、ああ、任せてくれ」


 おれは胸を叩いた。

 そうだよ。この日のために色々と調べてきたんじゃないか。

 しっかり美香をエスコートしないとな。


 そんなことを思いながら、周りの風景やお土産屋さんに目を向けつつ、たまに美香の顔を見つつ、アトラクションの前に到着する。

 時刻はまだ朝の十時前。

 しかし、既にファストパスは発券終了。

 待ち時間は六十分となっていた。


「やっぱり人気だな」


「だね。さ、私たちも並ぼ」


 美香に手を引かれ、待つ列の中へ。


「この後は早めのご飯だっけ」


「ああ、ここからそんなに遠くないから、予約の時間通りに行けると思う」


「朝ご飯食べてないから、既にもうペコペコ」


 言いながら、美香は服の上から自分のお腹に手を置いた。


「あ、そうなんだ……じゃあちょっと待っててくれ」


 おれは待ち列から抜け出て、マップを頼りに近くにあるワゴンへと向かった。

 そして、そこでポップコーンを購入し、美香の元へ戻る。


「はい、お待たせ。あんまり足しにならないかもしれないけど、ただ待ってるのもつまんないしさ、買ってきた」


「え、ありがとう。あ、キャラメルだ。好きなんだよねー」


 少し嬉しそうに微笑みながら、美香はおれの持っているポップコーンの一つを掴むと、それをおれの口の前に差し出してきた。


「え?」


「ほら、あーんしてよ」


「いや、おれは別に……」


「えー?彼女が差し出してるのに食べれないの?」


「そういうわけじゃないけど……」


 周りには沢山の人がいるから、いちゃついてるのが恥ずかしいってだけなんだけど……

 美香はそう思ってないのかな……


「ほらほら」


「あ、あーん……」


 おれは顔を真っ赤にしながら、美香の差し出してきたポップコーンを口にする。


「どう、おいしい?」


「う、うん……」


 恥ずかしすぎて、味なんかわかんないよ……

 周りからもずっと見られてるし……


 しかし、味をしめたのか、その後も美香の餌付けは止まることなく、結局半分以上、おれが食べることになるのだった。

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