ラッキー

「んん……」


 ブーブーと携帯のアラームが近くで鳴っているのが、かすかに聞こえる。


「はいはい……」


 振動を頼りに布団の中をまさぐっていく。

 そして、少しかかってからようやく携帯のアラームを消す。

 そのまま、冴えきっていない頭でボフンとベッドにもたれ、天井を見つめる。


 あー、眠気がすごいな……

 もう朝か……

 まだ寝ていたいけど、学校に行く時間だ……

 昨日はなんだかんだ、おれもテンションが上がってしまって、結局ベッドに入ったのが日付が変わってからだった。おかげで寝不足だ。

 それよりも冷たい水で顔を洗えば、目も覚めるだろう。

 おれは目を擦りながらベッドから這い出て、階段をゆっくりと降りる。

 そして、洗面所のドアを開けた。


「へ……」


 すると中には上半身、裸の女性が立っていた。

 どうやら、濡れた髪をバスタオルで拭いているところだったらしい。


「あ、あ……」


 見る見る間に目の前にいる女性の顔が赤く染まっていく。

 対するおれは寝ぼけているせいで、未だに状況が飲み込めていなかった。

 だが、時間が経つにつれ、ようやくクリアになっていく頭。それとは同時に一気に引いていく血の気。


 はは、やばいな、これ……いや、笑えないんだけど。

 おれ、死んだな……

 このタイミングでラッキースケベなイベントとかマジでいらないんだけど……

 まさか、美香が風呂に入ってたなんて。

 そういえば、昨日寝るのが遅いからって、明日の朝入るって言ってたっけ……

 完全に忘れてたな……

 とりあえず、ここから出ないと……


「ご、ごめ……」


 ごめん。と言おうとしたその瞬間。


「いいから出て行ってー!!!」


 美香の強烈なアッパーがおれのアゴにクリーンヒットした。


 くそ、中々いいパンチ持ってるじゃねーか……

 是非、ボクシング部に入部お願いします……

 おれ、ボクシングやったことないけど……

 おれはそんなバカなことを思いながら、床に仰向けでぶっ倒れた。

 ああ、二度と風呂場のドアをうかつに開けないようにしよう。

 そして、そう心の中で誓うのだった。

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