スパルタ

 翌朝。午前八時過ぎ。

 いつものように支度を済ませ、美香と共にに家を出る。なんだろう、この感じ。

 誰かと一緒に同じ家から出るこの感じ。

 すごいイイネ。

 ちなみに昨日は別々に寝た。

 夜中に美香が忍び込んでくることもなかった。それが残念だとはちっとも思ってない……うん……


 おれたガチャっと玄関の扉を開けた。


「あ、海斗……」


 そこには何故か香澄がいた。


「え、なんでここに……」


「あ、一緒に学校行こうと思って……迷惑だったかな……」


「いや、迷惑ではないけど……」


 この前、一緒に帰った時におれの家の前で別れたから、家がここだってのはわかるけど、わざわざ家の前で待つなんて。

 それより、もじもじするなよ……

 つい、見ちゃうだろ……


「海斗?なんで進まないの?」


 すると、おれが玄関で立ち止まっているので、不思議に思った美香が顔を出して来る。


「あ」


「あ……」


 そして、交差する美香と香澄の視線。


 うん……これは面倒な予感がするぞ?


「ふふふふふ二人がそそそそんな関係だったなんて、知らなくて……!ごめんなさい!」


 激しく動揺しながら、香澄は慌ててその場から走り去って行った。


「いや、おい!絶対変な勘違いしてるから!!」


 それを見ておれも慌ててその後を追うように走り出す。


「とにかく説明を……っていうか、足早いな!!」


 さっきからずっと走っているのにおれと香澄の距離は全く縮まっていなかった。

 むしろ徐々にだが、距離が開いているようにすら感じる。

 あの体力、どこから来てんだよ……


「大丈夫だって!誰にも言わないから!うん!大丈夫!」


「その言い方、絶対誰かに言うやつだから!」


 いや、それよりやばい……いきなり走ったからわき腹痛い……

 しかも、家では大体引きこもりだったから体力もないし……


 その時、おれの横を誰かが通り過ぎた。


「はいはい、ちょっと話聞いてね」


 それは美香だった。

 あっという間に香澄の腕を掴んで、走るのをやめさせた。

 後ろから走って追いついてきたのか?

 どんなスピードだよ……

 しかも全く息を切らしてないし……


「ゆっくりと話しながら、説明するから」


「美香ちゃん……」


「ああ、助かった……」


 おれは痛む脇腹を抑えながら、ゆっくりと二人と合流するのだった。


「っていうか、海斗、体力なさ過ぎじゃない……?」


 おれが近くにやってくると、美香は少し引き気味にそう言った。


「え、あ……」


 やっぱりそう思うよな……


「頑張って体力つけようね……」


 おれの肩に手を置きながら、香澄はニコッと微笑んだ。


 うん、これは……スパルタの予感……

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