冷却
午後の授業も終わり、放課後。
おれはいつものようにカバンを掴み、足早に教室を出る。
そして、下駄箱で靴に履き替えた時だった。
「あ」
「あ」
例のかわいい男の子とばったりと会った。
そして、驚きなのがなんと女子用の服を着ているじゃないか。やっぱり、女の子なんじゃないか……?
もし、そうだとしたらおれはとんでもないセクハラをしたことになる。それは非常にマズい。
いや、まて。双方合意の上ならセクハラじゃないんじゃないか……?
って、何考えてんだよ、そうじゃないだろ。
「あの、その制服……」
「あ、これ?僕にはこれの方があってるってクラスのみんなに言われちゃってさ。それで着てるんだよね」
ふふふと笑いながら、スカートを摘み上げる。
おい、何をやってるんだ。なんか邪な気持ちになるじゃないか。
言っておくが、もっと見たいなんて、これっぽっちも思ってないからな。
というか、そんな簡単に制服って変えられるものなのか?
まぁ似合ってるなら仕方ないけどさ。
「それより、今から帰るところ?」
「あ、ああ、そうだけど……」
「じゃあよかったら一緒に帰らない?」
いいながら、少し恥ずかしそうにもじもじと身体をくねらせる。
おい、なんでいちいち仕草が女の子みたいなんだ。めちゃくちゃかわいいじゃないか。
それに一緒に帰るなんて、デートみたいじゃないか。
いやいや、待て。彼は女の子じゃなくて、男なんだ。デートって言い方はおかしいだろ。
「あ、実は一緒に帰る人が既に……」
そこまで言って、おれは周りの空気がやけに冷えていることに気付いた。
な、なんだ……?
まるで真冬並みに冷えて……いや、それ以上か……?
これはまさかに絶対零度ってやつ……
そして、まさかと思い、ゆっくりと振り返ってみると。
「……」
やはり、美香がいた。
こちらをじっと見ている。
しかし、目が……目の冷たさがエグい。
冷却されるんじゃないかって程、冷えてる。
というか、完全に怒ってるな、あれは……
「海斗、誰それ……?」
「え、あ、いや……」
おれはどくどくと激しく鼓動を刻む心臓を抱えながら、彼の方に向き直った。
「そういえば、名前聞いてなかったな……」
「あ、そうだね。僕は新堂
「そ、そうだけど……」
「へー!噂には聞いてたけど、たしかにすごい美人さんだね」
言って、香澄は美香の方に目をやった。
「か、香澄は女子の制服着てるけど、実は男の子なんだよ……」
「はい、嘘つかない。こんな男、いるわけないでしょ」
「いやいや、本当なんだって……」
「海斗、まさかそんな嘘ついてまでこいつと……?」
「そ、そんなわけないだろ?!」
「松原さん、はい、これ僕の学生証」
おれと美香のやりとりを見かねたのか、新堂は美香の方に自身の学生証をずいっと見せた。
「は……お、男……?本当に男なの……?」
「一応ね」
言いながら、かわいく微笑む香澄。
それを見て、おれと美香は何故かキュンとしてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます