男…?

 おれは体育が嫌いだ。

 しかし、別に運動することが嫌いなのではない。そりゃ、冬の寒い時期に何故マラソンするんだって思うが、それが理由というわけではない。

 嫌いな理由はたまにだが、授業の中でペアを作らねばならないからだ。


 ご存知の通り、おれはぼっちだ。

 いつもなら一人で適当にこなしていけば良いのだが、ペアを作るとなるとこの上なく厄介なのである。

 何故なら、クラスの中でペアを作りたい奴がいるわけでもないし、かといって声がかかるわけでもない。

 そうすると、必然的に余り物同士が組むか、最悪の場合、体育教師と組むハメになる。

 この時のおれといったら、そりゃもう惨めだ。好きなもの同士ではなく、出席番号順にペアを作るとか配慮してほしいと切に願うのだが、その願いが叶う様子は全くない。


「はぁ……」


 そして、今もこうして周りはどんどんとペアを作っている。

 おれはため息を吐きながら、その様子をただ見ていた。

 せっかくテストも終わったってのに、体育の種目変更が来るなんてな……

 なんで準備運動するのに、ペアを作る必要があるんだよ……

 おれは心の中で激しく悪態をついた。


「あ、あの……」


 その時、後ろから声をかけられた。


「ん?」


 なんだと思い、振り向く。


「ぼ、僕とペアになってくれないかな……?」


 か細い声でそう言ってくる人物が一人。

 その言葉はとても有難い。が、その前に気になることが一つ。


「いや、君、女の子だよね……?」


 そう、声をかけてきたのは何故か女の子だったのだ。

 髪はセミロングくらいの黒髪、目元はパッチリしてて、睫毛なんかすごく長く、顔立ちがかなり整っている。

 それにかなり小柄で頭がおれの胸元くらいの位置にあった。声も高い。申し訳ないが、男には全く見えない。


「ち、違うよ!男だもん!」


 しかし、なぜかそんなことを言ってくる。


「はは、またまたー。冗談がすぎるぞ?」


「本当だって!ほら!」


 言いながら、おれの手を掴むとおもむろに自分の胸に手を当ててくる。


 い、いきなり何を……!?

 と思ったのだが、女性特有の柔らかい何かがあるわけでもなく、むしろ、男特有の硬い胸板がそこにはあった。


「ま、まじで男なの……?」


 おれはゆっくり手を戻しながら、恐る恐る聞いた。


「だから、さっきも言ったじゃん。男だって」


 少し照れながら、そう言ってくる。

 いや、もじもじするな。めちゃくちゃかわいいじゃないか。

 いや、待て。こんなかわいい子が男なんて信じられないぞ。見た目、完璧に女の子じゃないか。それに掴んできた手もすごく柔らかかったし、肌もツルツルじゃないか。


「でも、おれのクラスじゃないから、隣か?」


 おれの学校では体育の授業は二クラス合同で行っている。それにこんなかわいい奴、クラスで見かけたことないし、となると隣ってことになる。


「う、うん。少し前に転校してきたんだ」


「あー、そうなんだ」


「あ、あのさ、それよりも早くしないと終わっちゃうよ?」


 言いながら、周りに目を配る。

 おれもそれに釣られて、周りを見渡すと既にほとんどのペアが出来上がっており、準備運動をしていた。


「あ、ああ、そうだな」


 おれは少し慌てながら、床に足を伸ばして座っている彼の背中を押し始めた。


「……」


 しかし、妙な背徳感がおれを襲ってくる。


 お、落ち着け。これは男だ。何も問題はない。


 必死に自分を言い聞かせながら、背中を押していく。


「ん、んん……」


 しかし、何故か艶かしい声を出してくる。


「ちょ、ちょっと変な声出すなよ……」


「ご、ごめん……ちょっと力強いから……」


「あ、ああ、そっか、悪い……」


 そう言われ、おれは力加減をコントロールしながら、なるべく無心で準備運動をしていくのだった。

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