手と手

「今日、いや、昨日からずっとありがとうな」


「ううん、少しでも役に立ててよかった」


「少しなんてもんじゃないって。美香のおかげでテストも乗り越えられると思う。本当にありがとう」


「そっか。そう思ってくれるなら良かった」


 夜の七時過ぎ。

 おれは美香と共に夜道を歩いていた。


 晩ご飯を終え、明日からまた学校が始まるので美香を家の近くまで送っているところだ。

 てっきり、今日も泊まるのかと思っていたので、少し、いや、かなりガッカリした。

 こんなにガッカリするなんて、自分でも思っていなかった。


「そろそろ寒くなってきたね」


 言いながら、美香は自分の手をはぁと息を吐いて、温めた。


「そうだな」


 季節的にはもう冬だし、そろそろ手袋の出番かもな。

 そう思っていた時だった。


「えい」


 美香はおれの手を掴んでくると、そのまま握ってきた。


「んお!?」


 突然走った柔らかい感触におれはたまらず、変な声を上げてしまった。


「ふふ、何それ。変な声出してー」


 美香はおかしそうに笑う。


「いや、だって……」


 いきなり手を握られるなんて思ってないし……


「いやさ、こうしたらあったかいかなって思って……」


 言いながら、ギュッと手を握ってくる美香。

 握った先から、ほんのりとその温かさが伝わってくる。


「だめ……かな」


「いや、ダメじゃないけど……」


 むしろ、このままが良いとさえ思ってしまう。


「じゃあ、このまま歩こ?」


「わ、わかった……」


 おれはぎこちなく、返事をする。


 女の子と手を握るなんて、いつ以来だよ……

 小学校?いや、もしかしたら初めてかも……

 自分の手と違って、美香の手はものすごく柔らかかった。ゴツゴツしてなくて、むしろモチモチっていう感じだった。

 細くて、繊細で少し力を入れると折れてしまうんじゃないかと思えてしまうほどだった。

 っていうか、まさか手を握るなんて想像すらしてなかったよ……


「あ」


 だが、突然歩みを止めた美香は握っていた手をパッと離してきた。


「え、どうした……?」


 突然無くなった感触におれは少し戸惑いながら、尋ねた。

 すると、美香は少し遠くの方を見ていた。

 そこには誰かがいるように感じた。


「ううん……あ、ここで大丈夫だよ」


「そ、そうか?」


 まだ少し離れている気がするけど……


「うん。じゃあバイバイ……また明日……」


「あ、ああ、また明日な……」


 小さく手を振った後、美香は足早に去っていった。


「……」


 一方のおれは去っていく美香の姿を見ながら、自分の手を何回か握ったり、戻したりする。

 ほんのわずかな間だったけど、温かかった。

 今はすっかり冷たくなってしまい、名残惜しいとすら思ってしまう。

 今年は手袋使わないかもな……

 なんてバカなことを考えてしまいながら、おれは踵を返して、家へと戻っていくのだった。

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