風呂と夜這い

「……」


 夜の九時過ぎ。

 おれはリビングのイスに座り、一人でソワソワしていた。

 今、美香はこの場にいない。風呂に入っている。だから、何故かソワソワしてしまう。


 別に一緒に入るわけでもないのに、なんでこんなに緊張してしまうんだ……

 我が家の風呂を女の子が使っている。

 そう考えただけで心臓がバックバクなのである。我ながらピュアすぎるだろ。

 思春期真っ只中の中学生かよ……


「お先でした。いいお湯だったー」


「……!」


 そんなことを考えているうちに美香は風呂から上がったようでリビングに入ってきた。


「お、おう……」


 なんとか平然を装うとおれはテーブルに置いていたお茶の入ったグラスを手に取り、口につける。


「あ、お茶ってもらってもいい?」


「あ、ああ、冷蔵庫にあるから好きなの飲んでくれ……」


「ありがとうー」


 返事をしつつ、バスタオルで頭をガシガシと拭きながら、美香はおれの隣にいた。


 なんか良い匂いがする……

 いつも使ってるシャンプーの匂いじゃないな……

 もしかして、持ってきたのかな……


 それより、気になることがある。

 美香の着ている寝巻きのことだ。


 全面的にネコがデザインされた寝巻き。

 どこにあんなの売ってるんだ……?

 ネットで買ったのかな……

 ネコ好きなのは分かったが、なんというかあれを着ているのを、他人に見せるのはかなりの勇気がいる気がする。

 まぁそれだけおれのことを信頼してくれてると思えば、それはものすごく嬉しい。


「あのさ、さっきから見過ぎだよ、海斗?」


「え、あ!ああ、ごめん……」


 美香のその言葉でハッと我に帰る。


「さっきからなんかソワソワしてるし、もしかして緊張してる?」


「い、いや、別になんで緊張なんか……」


「ものすごくどもってるじゃん」


 からかうように美香は吹き出した。


「なんだったら一緒に入っても良かったのに」


「な、何言ってんだよ!?」


「あー、顔赤くなってる。本当ピュアだなぁ」


 そして、意地の悪い笑みを浮かべた後、冷蔵庫の前に移動し、中にあったペットボトルのお茶を手に取り、飲んでいく。


 くそ……

 なんか美香は余裕な感じなのが気に食わない……

 いや、おれが反応しすぎなのか……?

 だったら、一緒に入ってやる!みたいな度胸がおれにもほしいよ……

 その前にカレカノの関係でない男女が同じ風呂に入るなんてありえないよな。

 どこのラブコメだよってなるし。


 それよりも、お湯が冷める前に入ってくるか……


「じゃあ風呂入ってくる……」


「あ、うん。あ、私が入ったからってお湯飲んじゃだめだよ?」


「いや、そんな変態じゃねーから!?」


「そっか、ならいいけど」


 くそ、完全に弄ばれてる……

 いつか仕返ししてやる……

 夜這いにでも行ってやるか……


 いや、考えただけで無理だ……

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