イチャイチャ
「いや、本当申し訳ない……」
「気にしなくていいって。毎日美味しいご飯食べさせてもらってるんだしさ」
夜の六時過ぎ。
おれ達は街灯に照らされた夜道を歩いていた。
というのも、晩ご飯を作ろうしたのだが、食材が全くなかったのである。
まぁそれも当然だ。ここのところ、毎日二人分の食材を使っていたのだから。
なので、美香には悪いがスーパーに買い出しに向かっているところである。
「そろそろ寒くなってきたね」
「そうだな。あ、なんか晩ご飯のリクエストないか?これから買うわけだし、なんかあればそれを作るけど」
「リクエストか……あのさ……」
少し言いづらそうにする美香。
「うん」
「たこ焼き食べたいな……」
「え、たこ焼き……?」
予想外すぎるワードが出てきたので、おれはたまらず聞き返してしまった。
「なんでまたたこ焼きを……?」
「一度でいいから、家でたこ焼き作って食べてみたいのー!昔っから憧れてたんだけど、家で一人で作って、食べても味気ないしさ……」
少し悲しそうな声で美香はそう言った。
「そうだったのか……うん、じゃあたこ焼き作ってみるか。ホットプレートとたこ焼き機は家にあるし、作り方さえ分かればなんとかなる気がするから」
「おお、やったー!たこ焼きー!」
おれの返事を聞いて、美香は嬉しそうにはしゃぎながら、道をかけていった。
本当、子供だよなぁ……
普段とギャップがすごいし、そんな美香の姿をおれしか見ていないのかと思うと少し優越感がある。
「って、いねーし!」
そんなことを考えている間に、いつのまにか美香の姿が見えなくなったので、おれは慌てて駆け出した。
そして、大通りに出たところに美香はいた。
足を止めて、ぼーっと周りを眺めている。
というか、近くを歩いているカップル達を。
「どうしたんだ?」
「いちゃついてるなぁと思って」
言って、一組のカップルに目をやる。
大学生くらいだろうか。
仲良さそうに手を繋ぎながら、肩を寄せ合っているカップルが。手なんて、恋人繋ぎしてるな。しかも、彼氏は彼女の頬に鼻を当ててるじゃないか。
人前でいちゃつくのも大概にしろよ。
というか、恥ずかしくないのか。
「おーい海斗、目が血走ってるよ」
すると、美香がそっと近づいて言ってきた。
「ち、血走ってはいないだろ!?」
「いやー、バチバチだったよ?びっくりした」
「……」
自分ではそんな自覚はないが、周りからはそう見えるのかもしれない。
おれは目を瞑って精神を落ち着かせるようにした。
「イチャイチャしてみたい?」
「は、はぁ?!」
しかし、まさかの爆弾発言が飛んできたのでおれは盛大に声を上げてしまった。
「別に私とだなんて言ってないけどね」
小悪魔かのように舌をペロッと出した後、美香は一人で道を歩いていってしまった。
くっ、なんなんだよ、一体……
イチャイチャなんて……
したくない……
わけない……
くそ、おれのばか……
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