無意識と骨

 時刻は昼の一時を過ぎた頃。


「♪」


「……」


 隣には、やけに上機嫌の美香。

 おれ達は先程の約束通り、二人で行動していた。

 今は昼御飯を食べるためにあちこち回っているところだ。現に美香の手には食堂で売られていた、たこ焼きと焼きそばを持っている。


「文化祭盛り上がってるねー」


「そ、そうだな……美香のクラスもさ、ものすごく盛り上がってたな」


「盛り上がってるけどさ、来る人のほとんどの目当てが私なんだけど。スマイル下さいとか写真撮らせて下さいとか、まじで最悪なんだけど。変なお店と勘違いしてるんですかって感じ」


「ま、まぁ似合ってるからな。それは仕方ないんじゃないか?」


「や、やめてよ……海斗に見られるなら別にいいんだけどさ……」


「そ、そうか……」


 そう言って、顔を赤らめる美香。

 そ、その言い方と仕草は反則だぞ……

 おれもなんだか、顔が赤くなってきた気がする……


「それよりもさ、さっきからやたら周りから見られてる気がするんだけど……」


「いや、まぁそりゃそうだろうな……」


 こんなに人がいるんだ。

 美香が隣にいれば、どうしたって注目が集まる。

 それにメイド姿の美香を見た人も多いだろうし、その影響もあるだろう。

 ファンも少なからずいるはずだ。


「そういえば、休憩っていつまでなんだ?」


「三時。疲れただろうからって長めに取っていいってさ」


「そうなんだ。じゃあ、まだ時間はあるな」


「海斗は?」


「おれは写真撮ればいいから、それは回りながらでもできるからさ。むしろ、多く回れればその方がいいかさ」


「そっか!じゃあさ、まずはお化け屋敷行こうよ!」


 言って、バクバクとものすごい勢いでたこ焼きと焼きそばを食べていってしまう美香。


「よし、行こ!」


「あ、ちょっと待って」


 急いで行きそうになった美香を呼び止めながら、おれはポケットからハンカチを取り出した。

 そして、美香の口元についたソースを拭う。


「よし、これで大丈夫」


「あ、ありがとう……」


 言って、先程以上に顔を赤くしていく美香。


「あ……」


 その顔を見て、おれの顔も赤くなっていく。


 い、今、すごい恥ずかしいことをしてしまった気がする……

 完全に無意識だった……


「イチャついてるな……」


 すると、周りからそんな声がボソッと聞こえてきたので、おれ達は慌ててその場から去っていった。


 イチャつくつもりはなかったんだけどな……

 無意識って怖いな……













 ♦︎












「ぎゃああああ!ちょっとほら、海斗!なんとかしなさいよ!?」


「いや、無理だって……」


 というか、その前に掴んでる腕、離して……

 折れる……


 いつかの時のように美香はおれの腕を思いっきり掴んでいた。

 ギリギリと骨の軋む音が聞こえてくる。

 腕がへし折れる前にここを出ないと……


 おれは痛みに耐えながら、急いでお化け屋敷から出ていくのだった。


「あー……はぁ……」


「怖かったねー……あ、三年のクラスでもお化け屋敷やってるんだって。いこ?」


「救急車呼びたいの?」


 それよりあんだけ怖がっておいて、まだお化け屋敷に行きたいなんて、Mなのかな、美香は。


 そして結局、三年生がやっているお化け屋敷にも行くのだった。

 ちなみに骨は折れた。


 というのは嘘だが、しばらく痛みが付きまとうのだった。

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