人柄
とりあえず人気のないところと言うことで近くにあったファミレスに稲元と入った。
案内された席に向かい合わせで座り、ひとまずドリンクバーを頼む。
「それでなんでいきなり頭なんか下げたんだ……?」
おれの質問に対し、少し間を置いた後、稲元は口を開いた。
「この前、お前の隣にいた女の子に言われたことを考えてみて、今までずっとひどいことをしていたことにようやく気づいたんだ。それで謝りたくてさ……」
「……」
「自分の上辺だけを考えていて、お前のことを何も考えていなかった。嫌だったよな。毎日、毎日オレに付き合わされて。本当にすまなかった」
「稲元……」
言って、再び頭を下げてきた。
まさか、こいつがこんな風に反省するなんて、謝るなんて思ってもみなかった。
こいつもそこまで悪いやつじゃないのかもしれないな……
「それより、お前の隣にいた女の子、すごいかわいかったな。まさか付き合っているのか?」
稲元の素朴な質問に口につけていたドリンクバーで取ってきたコップに入ったコーヒーを思わず、吹き出しそうになってしまった。
「いやいや、そんなわけないだろ……付き合うなんてありえない。おれがいつも一人なの知ってるだろ……?」
「でも、彼女は隣にいたじゃないか。それにいつも一人ってわけじゃないだろ?」
「まぁそうだけど……」
「ああ、まぁいいや。それよりそっちの聞きたいことってなんなんだ?」
「あー、ええーっと……」
ばつが悪くなり、おれはなんと言うべきか迷った。
まさか、お前を疑ってた。なんて言えるわけないしな。
「なんだ、言いにくいことなのか?」
「言いにくいっていうか……そのちょっと混み入った話でな……」
「なんだよ、余計気になるじゃないか」
「だよな……あの、周りに言いふらさないでくれよ?」
「わかった」
稲元の返事を聞いて、おれはため息を一つ吐いた。そして、口を開いた。
「前にお前にも会った女の子、松原って言うんだけどさ、彼女が最近トラブルに巻き込まれてて。しかも連続で」
「トラブル?」
「ああ。中庭にいたら上の階から大量のバケツが落ちてきたり、上履きに画鋲が仕込まれてたり。で、そんな中、おれに手紙が届いたんだ。そこには彼女から離れないともっと酷い目に合うって書かれていたんだ」
「なんだよ、それ……彼女は大丈夫なのか?」
「今のところ、大丈夫だよ。でも、取り返しのつかないことになる前に犯人を特定したくて」
「あー、それでオレに聞きたいことがあったってわけか」
言って、苦笑する。
「そう……なる。いや、本当疑って申し訳ない……」
「いいって。そう思わせたのはオレのせいでもあるし。でも確かにこれ以上、何か起きるのは困るよな……」
「そうなんだよ……」
おれは、はぁと長いため息を吐いた。
「まぁ、オレにできることがあるかわからないけどさ、何があったら言ってくれよ。今までの償いじゃないけど、力になるよ」
「稲元……」
段々とこいつが良い奴に思えてきた。
単純かもしれないけど。
「文化祭って来週だったか?」
「え……?あ、ああ、そうだよ。来週の祝日の火曜と水曜の二日」
「そうか……」
それだけ言って、稲元は黙り込んでしまった。
なんだろう。まさか、来るつもりなのかな。
まぁ祝日なら学校は休みだし、来れるよな。
にしても、こいつとこんな風に話す日が来るなんて、思ってもみなかったな……
怪我の功名ってこういうことを言うのかな……
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