手紙

 文化祭もあと五日と迫ったある日の夕方。


「……」


 そんな中、おれは中庭のベンチに座っていた。

 カメラに映った先ほど、撮った写真を眺めていた。

 しかし、考えるのはあの時の出来事ばかりだった。

 あれ以来、美香には何も起きていない。

 もちろん、犯人も見つかっていない。

 学校側としてもやれることはやったとのことだった。しばらくの間、見回りに何人かの先生を交代交代に出してくれた。

 それが限界だった。

 それもそうだろう。何故なら、どうやっても調べようがないからだ。

 こちらとしても、これ以上何もないことを祈るのみだった。


「ここにいたんだ」


「え」


 すると、聞き覚えのある声が後ろからしておれはそちらに振り返った。


 そこには美香がいた。

 両手に紙パックのジュースを一つずつ持っている。


「はい。お疲れ様」


 言って、おれの前に来て、片方のジュースを渡してくる。


「わざわざ悪いな……」


 おれはそれを受け取りつつ、礼を言った。


「ううん、いいって。それより海斗、最近怖い顔してるね」


「え……?」


「この前のことで悩んでるんでしょ?でも、私なら大丈夫だからさ。それより、文化祭の準備進めないとじゃない?もうあと少しだし」


「それはそうだけど……」


 そう言われても、やはり気になる。

 怪我をした以上、放ってはおけない。


「大丈夫だって。ここ最近、何もないしさ。相手も飽きちゃったんじゃないの?」


「そんな簡単なもんかな……」


「難しく考えすぎだって。それじゃあ、ほら、ストレス発散にメダルゲームでもしに行こうよ」


「それって、単に美香がやりたいだけだろ……?」


「ち、違うもん……」


 言いながら、少しだけ頬を赤らめる。

 うん、図星らしい。

 しかし、美香の言うことも一理あるかもしれない。たまには息抜きも必要だ。


「じゃあ、行くか。でもあんまり遅くなるのは良くないから少しだけだけど」


「おっけー!じゃあ、いこ!」


 いきなり、ぐいっと腕を引っ張ってくる美香。

 おれはその行動にドキッとしてしまう。

 もしかしたら、美香なりにおれのことを元気付けようとしてくれているのかもしれない。

 なら、その好意を無気にするのは良くないよな。


 そうして、おれ達はそれぞれの教室に戻り、カバンを取った後、下駄箱に向かう。

 念の為、美香の靴を確認する。

 靴には何かされた後はなく、おれはほっとして、自分も靴を履き替えようとした。


「ん?」


 そこで靴の横に何かが置いてあるのに気づいた。


 なんだ?


 おれは首を傾げながら、それを取る。

 それは便箋に入った手紙だった。


「……!」


 それを見た途端、心臓がどくんとはねた。

 いや……!まさかな……!?

 しかし、今の時代にこんなものを……!?

 その前にこれを置いたのは誰だよ……!

 い、イタズラならマジでタチ悪いぞ……


 おれは激しく鼓動する心臓を抱えながら、必死に落ち着かせようとする。


「何固まってんの?」


 そんなおれを見て、美香が横から聞いてきた。

 そして、おれの持っているそれに目が止まる。


「何これ!?」


 何故か慌てた様子でそれを奪い取ろうとする。


「って、おい、なんで取ろうとするんだよ?!」


「あ、ごめん、つい反射的に……ってそんなことより、なんなのよ、それ!?」


「いや、こっちが聞きたいし……」


「ま、まぁ、どうせイタズラに決まってるんでしょうけど?」


「地味に傷つくわ……まぁいいや……」


 おれは意を決して、手紙を開封してみた。

 しかし、そこには想像とは真逆のものが入っていた。


「なんだよ、これ……」


 たまらず、そんな一言が出てしまう。


 確かに中には手紙が入っていた。

 手紙には新聞やチラシの文字を切り抜き、貼り付け、まるでドラマに出てくる脅迫文が作られていた。


 イマスグカノジョノマエカラタチサレ。サモナイトモットヒドイメニアウゾ。


 彼女の前からって、それはつまり美香のことで……

 いや、ということはつまり一連の流れのターゲットはおれだったのか……?

 そのせいで美香に危険が及んだってことなのか……?

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