エスカレート

 職員室でおれは先ほど起きたことを学年主任の先生に話した。

 もちろん、話は聞いてくれたが、予想した通り、誰がやったのか突き止めるのはかなり困難だとのことだった。

 まぁ、それはわかっていたことである。

 とにかく、怪我がなくてよかったと言われ、おれ達は職員室を後にした。


「なんだったんだろうね……」


 帰り道、美香は静かに口を開いた。


「分からない……まぁでもとにかく怪我がなくて良かったよ」


「それは海斗のおかげ。ありがとうね」


「ああ、いや、別に……」


 面と向かって礼を言われると照れる。

 それにあの時は咄嗟だったからな。

 思わず、抱きしめる感じになってしまった。

 改めて思い出せば、なんだが恥ずかしくなってくる。


「あ、じゃあ、この辺でいいや……また明日ね」


 すると、いつのまにかいつも別れる十字路までやってきており、美香はおれに手を振った後、去っていった。


「……」


 おれはその後ろ姿を見つつ、頭を抱えながら、家の方へと歩みを進めるのだった。













 ♦︎












 翌日の朝。

 いつも通り、美香と共に学校へと向かう。

 昨日のことも気にかけつつ、学校へと辿り着いた。

 今のところ、おかしなことはないよな……


 そう思っていた時だった。


「いたっ……!」


 突如、美香の苦痛の声が聞こえてきたので、おれは慌てて駆け寄った。


「どうした?!」


「これ……」


 言いながら、右手の指先を見せてくる。

 何かが刺さったようで、人差し指と中指からはうっすらと血が滲み出ている。


「なんだよ、これ……」


 おれは美香が掴もうとした上履きを見て、青ざめた。

 上履きのかかと部分にはびっしりと画鋲があったのだ。

 しかも、ご丁寧にテープか何かで綺麗に隙間なく止めており、どこかをうっかり触れれば怪我をするのは当たり前の状況だった。


「と、とりあえず、手当てしに行こう……」


 何故、こんなことになっているのかわからないが、とりあえず美香の怪我の手当てをしないと……

 それに周りの生徒の目もある。


「ごめん……」


「いや、何も悪くないだろ。むしろ、被害者だ」


 そう言ってから、おれは美香と共に保健室へと向かった。


 これはイタズラにしてはタチが悪すぎる。

 美香を狙ったイジメか?

 だとしたら、昨日のことも納得できる。

 しかし、なんだって美香を?

 至って普通にしているのに。

 それとも何か恨みでもあるっていうのか……?


 おれは次々と湧いて出てくる疑問を抱えながら、保健室で美香の傷の手当てをしてもらい、その後、職員室に向かい、昨日同様に一連の状況について説明するのだった。

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