ショッピングモールを出てから、道を歩いていく。

 とりあえず、途中まで美香を送ることになった。


「……」


「……」


 しかし、お互い無言である。


 何か喋った方がいいよな……

 このまま無言は辛すぎるし……

 かといって、何を話す?

 自慢ではないが、おれは話術は皆無だ。

 というか、今思ったけど美香と話す時ってほとんど向こうから話しかけてくれてたよな……

 それは色々とまずいんじゃないだろうか……

 よし、今日は誘ってくれてありがとうとか言えば、話も広がるよな、よし……


 おれは心の中で少し気合いを入れると、美香をチラッと見た。


「きょ……」


 しかし、言葉を続けようとしたその時、背後から誰かに肩を叩かれる。

 おかげで変なところで口を閉ざすことになってしまった。


 タイミングわる!

 てか、なんだよ……


 おれは恨めしげに後ろを振り向く。


「また会うなんて奇遇だな」


 おれの肩を叩いた人物はやけに爽やかな笑顔を浮かべている。

 当然だ。奴には今、連れもいるし、何より美香もいる。

 こいつが裏の顔を出すはずがない。


「稲元……」


 なんだって、こいつがここにいるんだよ……

 まぁ十中八九、後ろにいる連れの人と遊びに来たってところなんだろうけど……


「最近、よく会うな。びっくりしたよ。それより隣にいるのって……?」


 稲元は美香をジッと見る。

 対する美香はなんだと言わんばかりの表情だ。


「あ、ああ、おれと同じ高校に通う松原 美香さんだよ……」


「そうなのか。いや、やけに綺麗な人がいると思ったら、まさか隣に工藤がいるから驚いたよ。こんな綺麗な人と一緒にいるなんてさ」


 はははと工藤は笑う。

 これがこいつの表の顔。

 爽やかな笑顔と口調で周りを騙す。


「海斗、この人誰?」


 一方の美香は相変わらず、無表情だった。


「あ、ああ、中学の時の同級生で稲元って言うんだ……」


「ふーん……」


 やけに含みのある返事をする美香。


「どうぞよろしく。工藤とは中学の時から友達でさ。まぁ高校は別々になっちゃったんだけど……」


 まるで息を吐くように嘘をつく。

 この関係が友達だというなら、全世界、皆友達だ。平和しかない。


「嘘でしょ?」


「え……?」


 だが、何故か美香はそれが嘘だと見破った。


「もし、本当に友達なら中学の時の同級生なんて紹介の仕方はしないと思うけど」


「いや、それは言葉の綾で……」


 見破られると思ってなかったのか、稲元は少し焦った様子だ。


「それに海斗もなんだかずっと気まずそうな感じだし、嘘ついてまで何したいの?」


「……」


 何も言えず、稲元は黙り込んでいた。

 こんな姿を見るのは初めてだ。


「いこ、海斗」


「え、あ、うん……」


 そうして、おれ達二人は稲元の前から去っていった。

 その間、稲元は何をするでもなく、ジッと地面に視線を落としていた。

 こんなことになるなんて、予想外すぎておれは内心かなり驚いていた。

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