「それは違う!」


 非道な言葉を並べ立てる悪の親玉を前に主人公の少年が力強く否定する。


「オレにはまだ愛が何なのかよくわからないけど、誰かを助けたい気持ち、誰かを想う気持ちだってことはわかる。だから、どんな戦いにだって立ち向かえる。お前にだって絶対に負けない!」


 少年がそう口にした瞬間、手から眩いばかりの光が溢れ出す。

 そして、そこで一気に画面が暗くなり、そのままエンドロールに入る。


 ええ!?ここで終わりかよ!?


 たまらず、そう思ってしまう。


 周りの観客達も同じことを思っているのか、ブーイングも起こっている。

 その気持ちもわからんでもない。

 まさにここからってところで終わりなんて、それはないだろって感じだし。

 まぁこの終わり方だと続編はあるっぽい感じだけど。


「終わっちゃったねー……」


 すると、隣に座っていた美香は名残惜しそうに言った。


「だな……とりあえず出るか」


「うん」


 そうして、二人で映画館から出る。

 そのまま、近くにあったソファに座る。


「面白かったけど、終わり方が良くなかったな。これからって時に。しかも、あの最後の光はなんなんだよって感じだし」


「そうだよね。ふふ。でもさ……」


「え、なんだよ?」


「よっぽど面白かったんだね。海斗、いつになく、饒舌になってる」


「え、あ、はは……」


 美香にそう言われ、恥ずかしくなり、おれは乾いた笑いを浮かべた。

 面白かったのは確かだし、周りから見てもそれがわかってたんだな……

 おれ達が見ていたのは海外で作られたファンタジー映画だった。

 世界を闇で支配しようとする悪の使者達。

 それを阻止しようと光の勇者と呼ばれる一人の少年の物語だ。

 少年は途中、同じ志しを持つ少年、少女と出会い、仲間になる。

 しかし、悪の手が迫ってき、一人また一人と犠牲になっていく。

 悲しみに暮れる中、少年は一人で悪の親玉に挑んでいくのだった。


「私はセリフにグッときたなぁ。特に最後のやつ」


「最後の?」


「うん。愛が何なのかわからないけどってやつ」


「愛ねぇ……」


 おれにもまだわかんないな、愛ってやつは。

 誰かを好きになったこともないし。

 あ、でも親父とか母さんのことを想ったりすることはあるから、家族愛ってのは分かるかも。


「海斗はさ、誰かを好きになったことあるの?」


「え、な、何だよ、突然……」


「気になったから聞いてみたの。ある?」


「いや、まだないよ……」


「そっか」


「美香はあるのか……?」


「んー、まだないかも」


 言いながら、美香ははははと笑った。

 あるんだな、誰かを好きになったことが。

 おれはその笑いでそう思えた。

 今の笑いは隠したい時に出る笑いだと思えたからだ。


 うーん、美香は誰を好きになったんだろうか……

 少し、いや、だいぶ気になるな。

 まぁ探しようがないんだけどさ……


 しかし、こんな美少女に好かれるなんて、なんて幸せなやつなんだ。一度会ってみたいぞ。


「それより、これからどうする?」


「え、あー、そうだな……」


 時刻は間も無く六時になろうとしている。


「そろそろ帰るか……?」


「うーん、そうだね、そうする」


「それじゃ途中まで送っていくよ」


「え、ありがとう。嬉しい」


 おれの言葉に美香はほんのりと笑みを浮かべた。

 こんなことで喜んでくれるならいくらでも送るよ……


 おれはついそんなことを思ってしまうのだった。

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