予想外

「「……」」


 二人がけの席に座り、無言で黙々とメダルを投入していく。

 おれ達がゲーセンに来てから既に二時間が経過していた。

 自販機で買ってきたジュースも既になくなり、二本目もまもなく無くなろうかというところだった。

 しかし、時間は経っているのにメタルが全然減っていない。むしろ、着々と増えている。


「減らねぇな」


「そうだね……あ、また当たっちゃった……」


 理由は単純。

 美香が当たりを次々と引き寄せるのだ。

 いわゆる、ビギナーズラックってやつ?

 確率なんて無視して、とにかく当たりが出てくる。

 一方のおれは中々アタリがこないので、美香からメダルをもらってはそれを投入しているのだが。


「無くなる気がしねぇな……」


 もはや、遊んでいるという感覚がない。

 いつの間にか、無心でメダルを流し込むという作業になっている。美香とおれ、まさに需要と供給が成り立ってしまっている。


「どうしよっか……」


 困った様子の美香。


「そうだな、よし……」


 それを見て、おれはカップに山盛りに積まれたメダルを手にすると、ゆっくりと席から立ち上がり、再び受付まで向かった。


 最近のゲーセンでは共通だと思うが、消費できなかったメダルを預けることができる。

 いわば、ゲーセンの銀行みたいなものだ。

 専用のカードを作れば、次からは両替機でメダルを引き出すことができる。

 便利なシステムだ。


「これくらいなら、すぐに消費できるだろ」


「あ、うん、そうだね。ありがとう……」


 元の席に戻り、美香が持っているカップを覗き込む。ざっと見た感じだが、50枚程度、残っていた。これなら、消費できないこともないだろ。

 そしておれの予想通り、メダルはすぐに消費でき、おれと美香は晴れてメダルゲームから解放されたのであった。


「思った以上に時間かかったな」


「そうだね。でも楽しかった」


 ゲーセンを後にしつつ、静かに微笑む美香。

 そんな表情もまたかわいらしい。


「ならまたやりにくるか。メダルも沢山預けたことだし」


「あ、うん!」


 元気よく返事をする美香。

 次のデートはいつになるんだろうか……


「さて、次はどうする?」


 時刻は昼の三時頃。

 そろそろ小腹が空いてきたところだったりもする。

 しかし、昼間、甘いものを沢山食べたから、そういう類は遠慮したかったりもする。


「あ、じゃあさ、映画見に行こうよ」


「え、映画?」


 ところがまさかの美香からは予想外すぎる提案が。


「突然、どうしたんだ?それに今からチケットって買えるのか?」


 この混み具合なら、映画の種類にもよるが、望み薄な気がする。


「あ、それは大丈夫。さっきネットで予約しといたから」


「お、おおう……」


 しかし、おれの心配は杞憂だったようだ。

 まさかの手際の良さ。驚きのあまり、変な声出たわ。


「じゃあ、行くか……」


「うん。実は前から見たくてさ、せっかくここに来たんだからと思って、ダメ元で見てみたら空席かあったの」


「そうなんだ……」


 この前もおれの部屋で映画見たし、映画好きなのかな。

 それにしても、どんな映画なんだろうか。

 前みたいにホラーじゃなきゃいいけど……


 美香と密着できるのは嬉しいが、腕、へし折られそうなくらいの威力だしな……

 あれはまじで勘弁してほしい。


 おれは心の中でそんなことを思いつつ、今度はエスカレーターを二つ上がり、映画館のフロアへと向かうのだった。

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