ゲーム

 時刻は昼の一時を過ぎた頃。


「美味しかったな」


「うん、大満足だった。また行く」


 満面の笑みを浮かべる美香。

 そんな顔を見ることができて、おれも誘われてよかったと心の底から思えた。

 しかし、次はもう少し行動を控えた方が良いかもしれない。まぁこっちとしてはイチャイチャしてるつもりは全くないのだが。

 むしろ、写真を撮られそうになったので、逃げてただけだし。


「さて、これからどうしよっか……」


「そうだな……」


 昼を少し回ったくらいで、このまま解散するには勿体ないし……

 かと言って、どこかで暇をつぶせるような場所は……


「あ」


 その時、おれは良いものを持っているのを思い出した。


「ここ行かないか?」


 そう言って、おれは携帯のアプリを取り出した。


「何それ」


 携帯の画面を見ようと、グッと美香が顔を寄せてくる。

 すると、美香からほんのりと甘い香りが漂ってくる。これはケーキの匂いかな……

 しかし、それ以上にそのかわいい顔が近くにあって、おれはドキドキとしてしまう。


「げ、ゲーセンのアプリだよ。最近、クーポンが届いたんだ。メダルゲーム50枚無料だってさ」


 おれはなるべく顔を近づけないようにしながら言った。


「へー。メダルゲームか…-」


「あれ、もしかしてやったことない?」


「そ、そんなことないよ!?メダルゲームくらいやったことあるし!」


 おれの問いに対して、いきなりキョドリ出す美香。うん、この反応はやったことないんだな。


「か、海斗よく行くの?」


「まぁそうだな」


 家に帰っても暇なときはよくゲーセンに行くな。

 ボーッとしながら、メダルゲームやるのが多かったかな。まぁほとんど中学の時だけど。

 稲元に色々といじられて、家に帰りたくなかった時とか。ああ……嫌な思い出を呼び起こしてしまった。


「そうなのね……」


「このままここに突っ立ってるのもなんだし、行ってみないか?」


「うん!やってみたい……じゃなくて、行ってみたい……!」


 はっとした表情で慌てて言い直す美香。

 ボロが出たな。

 しかし、女子だから行ったことないのかな。

 まぁなんでもいいか。

 それより、50枚じゃすぐに終わりそうだな。

 あと100枚くらい追加しとくか。


 というわけで、おれ達はエスカレーターを上がり、上のフロアにあるゲーセンへと向かうことにした。


「混んでるな」


 ゲーセンへと入ると、やはり週末だからか、子供連れから学生、大人のグループまで幅広い世代が遊んでいた。


「まずはメダルを作って……」


 店員さんのいるカウンターでアプリを見せ、メダルを受け取る。

 そして、そのまま今度は千円を入れ、追加のメダルを作る。


「あれ、それ……」


「まぁ50枚だとすぐに終わりそうだし、これくらいは必要かなと思ってさ。さ、席がなくなる前に座っちゃおうぜ」


 おれはそう促し、適当な台の前に座る。


「あ、うん、ありがとう……」


 小さくお礼を言ってから、美香はおれの横に腰掛けた。

 うん、やっぱり隣に来るよな……

 誘っておいてなんだけど、こんな至近距離初めてだから、なんか色々と意識してしまう……


 高まる鼓動を抱えながら、おれと美香は遊び始めるのだった。

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