データ

 金曜日の放課後。

 おれは新聞部の部室にいた。


「うんうん、中々いい感じ」


 田村はパソコンに取り込んだ写真を見ながら、頷く。


「こんなもんでいいのか?思いっきり素人感出てると思うんだけど」


 隣でパイプ椅子に座っているおれはそう口にした。


「大丈夫だよ。こういうのは気持ちだと思うし。まぁ、ある程度の技術は必要だけどね」


 言いながら、苦笑する。


「って、うん、これは……」


 その時、何かを見つけた田村はスクロールさせていたマウスの動きを止める。


「お、あ……」


 こういう、何か見つかるとまずい時、人間って咄嗟に言葉が出てこないんだな……

 あの時、消しておけば良かったけど、なんとなく勿体ないって思って、そのままだったんだよな……

 しかし、まずった……


「ふーん、やっぱり男の子だとこういうのが好きなんだ?」


 こちらをじろじろっと見ながら、田村は言った。

 文化祭の出し物を決める時にメイド喫茶のこともあるから、そう思われても仕方ないとは思うが……


 田村が手を止めたのは、美香の写真があったからだ。そのメイド服姿の。しかも、めちゃくちゃ顔を赤らめているところだ。


「いや、これはその偶然で……」


「偶然にしては結構いい感じで撮れてるよね?アングルも絶妙だし」


 言いながら、目を細めてくる。

 くっ……確かに少し気合いを入れて撮ったのは事実だ……

 だって、かわいいんだもん……

 仕方ないじゃん……


「でも、さすがにこれを採用するわけにはいかないけどね」


「まぁ、それはそうだよな…-」


 そんなことしたら今度こそ、美香がカメラを破壊することだろう。いや、カメラで済むとは思えない。パソコンごと破壊しにくるだろう。鬼の形相で。それはさすがにまずすぎる。


「じゃあ消すね」


「え、いや、それは、あのさ……」


 おれはたまらず、田村の手を掴みそうになった。

 何故、反射的にそうしたのか自分でもわからなかったが、とにかく先に身体が動いてしまったのだ。


「ってことはほしいんだ?」


「え……?」


「データ」


「いや、そうじゃないけど……」


「でも消されるの嫌なんでしょ?」


「……」


 その言葉に対して、返事をするのが嫌でおれは押し黙ってしまった。


「じゃあプリントアウトする?」


「え、あ、お願いします……」


 おれは反射的に今度は頭を下げた。


「うわっ、即答……引くわ」


 しかし、その潔さが仇となり、田村に思いっきり引かれてしまった。


「まぁ、消すのはやめとくことにするよ。でも、あんまりこういうのは撮らないでよね」


「あ、悪い……」


 田村に釘を刺され、おれは謝った。

 まぁとにかく消されなくて良かった……


「もしかして、ほっとしてる?」


「え、いや、違うって……」


 おいおい、バレてるじゃん……

 ポーカーフェイスの練習しないとな……

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