スイーツ

「だ、大丈夫……?」


「あ、ああ……大丈夫……」


 なんとか返事をしながら、おれはズボンの後ろポケットに入れていたハンカチを取り出して、口元を拭う。


 全く、良いタイミングで来過ぎだろ……

 周りには美香以外、奇跡的に人がおらず、幸いにもおれの醜態を見られてはいなかった。


「それより、まさかこんな早く来るとは思わなかったよ……」


「それはこっちのセリフだって。駅に来たら先にいるんだもん。びっくりした」


 言いながら、美香は小さく微笑む。


 その笑顔がまたかわいいのなんのって。

 それに服装は以前と同様に、ジーンズにロンT、パーカーという組み合わせ。まさかのおれと服装が被るという奇跡。お揃いのコーデをしてきたのだと思われそうな感じだった。

 完全に予想外の展開である。


「ちょっと海斗、ジッと見過ぎ……」


 すると、おれは無意識の内に美香を見つめていたようで、美香は少し恥ずかしそうに顔をうつむかせた。


「え……?あ、ああ、悪い……!」


 謝りつつ、おれは慌てて顔を背けた。

 心臓がすごいバクバクしてる……

 それに照れた顔もこれまた最高にかわいいじゃないですか……

 というかこんな調子で大丈夫かな、おれ。

 今日一日、心臓持つかな。

 なんとなく、そんな不安を抱えてしまう。


「そ、それで今日はどこに行くんだ?」


 なんとか心を落ち着かせて、おれはベンチから立ち上がり、美香にそう尋ねた。


「あ、うん。ここに行きたくてさ」


 そう言って、美香は肩からかけていたポーチから携帯を取り出して、画面をおれに見せてくれた。


「ここって……」


 画面に映っていたのは、先月ショッピングモールのレストランフロアにオープンしたスイーツバイキングのお店だった。

 リーズナブルな価格の上に種類も豊富で、ニュース番組でも特集されるほどだった。

 海外生まれで最近日本にやってきたらしい。


「ここに食べに行くってことか?でも、ニュースでみたけど、予約必須な上にだいぶ先まで予約で埋まってるらしいけど……」


「ふっふっふ……なめてもらっちゃこまりますよ。私が何の策をしてないとでも?」


 おれの質問に美香は口を歪ませ、怪しい笑みを浮かべた。

 なんか子供っぽいところもあるんだな……

 結構新鮮だ。


「予約は既に済ませているのさ!しかも一ヶ月前からね!」


「さすが……!って、そんな前から!?」


 おれと知り合う前から予約してたってことだよな?


「どうしても行きたくてさ、やっとこの日が来たかって感じ」


 美香は待ってましたと言わんばかりに空を見上げた。

 この前もパフェ食べてたし、甘いもの好きなんだな。やっぱりそこは女子だな。

 いやまぁ思いっきり女子なんだけど。

 それにしても、予約までして相当楽しみにしてたってことだよな。

 そうなれば、こちらとしても下手をこくわけにはいかない。誘われた以上、しっかりしないと。この前みたいな発言は絶対にNGだからな。


「よし、そういうわけなら早く行こうぜ。おれもなんか楽しみになってきたし」


「本当!?よかった!じゃあ行こっか!」


 そうして満面の笑みの美香と共に、おれはショッピングモールまでの道を歩いていくのだった。

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