デート

 週末の土曜日。

 いよいよ、この日がきた。


 そう、美香とのお出かけ、つまりデートである。


 昨日の夜から緊張し過ぎて、あまり眠れなかった。まるで遠足前日の小学生並みである。

 おかげで目がギンギンに血走っている。

 めちゃくちゃ気合い入ってる奴みたいに思われたら嫌だな……

 いや、まぁ気合いが入らないわけではないんだけどさ、むしろ、入って当然というか……


 おれはいつも出かけるより、服装に気を使い、可能な限り、オシャレをしてきた……つもりだ。

 しかし、ジーンズにパーカーってこれはオシャレなんだろうか……

 確実にラフすぎる格好だよな……

 今更なんだが、そう思ってしまう。

 やっぱりタキシードが良かったかな……

 それよりも、この前はうっかり変なことを言ってしまったからな。今日は気をつけないと……


「さて、どうするかな……」


 そんなことを考えつつ、道を歩きながら、そんな独り言を呟いてしまう。

 というのも、美香との待ち合わせまで、あと三十分以上、時間があるのだ。

 待ち合わせ場所は近くの駅に十時半に集合で、駅には家から十分足らずで着いてしまう位置にある。

 今が九時四十分過ぎなので、十時前には着いてしまう計算になる。

 というのも、ソワソワしすぎて、やたら早く家を出てしまったのだ。


 しかし今更、家に戻るなんてことは避けたい。

 まぁ仕方ないか。途中、飲み物でも買って駅のベンチで座って待っておこう。


 おれは頭の中で考えがまとまると、ゆっくりと駅に向かって歩き出した。


 そして九時五十五分に駅へと辿り着く。

 もちろん、美香はまだ来ていない。

 おれは途中、コンビニで買った缶コーヒーを袋から取り出し、プルタブを開けると近くのベンチに腰掛けた。


 しかし、こんな朝早くだってのに人が多いな。

 コーヒーを飲みながら、行き交う人々に目を向ける。

 そろそろ肌寒くなってきた時期だが、今日は晴天で、ポカポカ陽気だと天気予報では言っていた。

 その影響もあるのか、駅にはこれから出かけるであろう人が大勢いた。

 家族で出かけている人、グループでワイワイと騒ぎながら、歩いている学生達。

 その中でこれから、デートに行くんだろうなと思われるカップルらしき二人組が目についた。

 そういや、おれと美香もデートってことなんだよな……

 周りからはカップルに見られたりするんだろうか……


「……」


 何気なく、ふと、そんなことを思った瞬間、顔が異常に熱くなっていくのを感じた。


 いやいやいや!!そんなんじゃないだろ!!

 これはただ、誘われただけっていうか、そもそもどこに行くのか、何をするのかも知らないし、その前におれと美香は付き合ってないから!

 って誰に言ってんだよ……

 それに、くそ……

 この想像はぼっち野郎には刺激が強すぎたぜ……

 おかげで頭の回路がショートした……

 誰か修理して下さい……


 壊れた回路を抱えたまま、おれは固まった手でグビッとコーヒーを一気飲みする。


「あれ、海斗……もういたね」


 だが突然、美香が目の前に現れたため、おれは驚きのあまり、口に含んでいたコーヒーを一気に飲み込んでしまった。


「ゲホッ、ゲホッ!」


 おかげで変なところに入り、むせてしまう。


 狙ってきたのか、美香は……?!

 あまりのタイミングの良さにおれは思わず、そんなことを思ってしまうのだった。

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