出し物

 翌日の六限目。

 文化祭の出し物を決めるため、この時間は特別に授業ではなかった。


「どうして、こうさっと決まらないんだ?」


 出揃った案を前に担任はイスに座りながら、頭を抱えた。


 文化祭の出し物の案は四つ。


 一番ベターな喫茶店にお化け屋敷、演劇、そして一番つまらなさそうな展示である。


 演劇と展示は賛成派が少ないため、すぐに却下となったが、問題は喫茶店とお化け屋敷だった。


「だから!なんで喫茶店なのにメイド服着なきゃならないのよ!」


「集客のためだろうが!それにその方が宣伝にもなるだろ!」


「集客なんていらないでしょ!本当に喫茶店を経営しているわけじゃないんだから!」


 黒板の前で男子代表と女子代表が言い合っている。

 うん、女子の意見も分かる。

 大体、メイド姿を見たいのは男子だけだし、着る意味あんのかって感じだよな。

 だが、お化け屋敷だと積極的にやりたいという女子は多くない。

 だから、多数決となると喫茶店に傾くのだが、喫茶店=メイド喫茶になりそうなので、こうして対立しているわけである。


「いや、その前に仮にやるとしてメイド服って誰が調達するんだよ?そんな予算ないぞ」


 男子と女子が対立する中、担任からそんな疑問が投げかけられる。


「オレが縫います!」


 そして、キラッキラの眼で答える男子代表。

 いや、無理だろ。

 あと三週間くらいしかないのに、十八人の女子のメイド服なんて用意できないだろ。


「そういう情熱は勉学に向けろ?よし、喫茶店はやるがメイド服はなしだ。それでいいな?」


 しかし、あっさり一蹴され、湧き上がる女子達。激しく落ち込む男子達。

 そんなに見たかったのか、メイド服……?

 まぁ、もし美香が着たなら……ってなんで美香が出てくるんだよ……

 いや、でも似合いそうだな、うん。

 絶対人気出るだろうし。













 ♦︎













「クラスの出し物決まった?」


 その日の放課後。

 いつも通り、美香と帰っている途中、美香がそう口を開いた。


「ああ、うん。喫茶店に決まったよ。そっちは?」


「それがさー……」


 美香は盛大にため息を吐いた。


「なんかあったのか?」


「男子どもがさ、メイド喫茶がいいとか言い出して……」


「そっちもかよ……」


 うちの男子、バカばっかか。


「そっちもってことは海斗のクラスでもそういう意見上がったの?」


「うん。でも服が用意できないからって、普通の喫茶店になったよ」


「いいね……私のクラスはさ、メイド服着たい!とかいう女子多くて、何人かで生地買って用意するってなってさ。もう最悪よ……」


 頭に手をやり、再びため息を吐く美香。

 まさか、あれを着たいっていう女子がいるなんてな。驚きだ。


「しかし、まぁ美香なら似合いそうじゃないか……?」


「え……?」


 おれの一言に美香はこちらに目をやる。


 いや、何言ってんだ、おれ!?

 今のは不用意すぎる発言だろ……!


「ああ、いや、別に変な意味じゃなくてな……その……」


 上手くなんと言えばわからず、おれは口籠もってしまう。


「もしかして海斗、見てみたいの?」


「いや、あの、その……うん、まぁ見てみたいとは思う……」


 きっと、おれの顔は今、ゆでだこのように真っ赤だろう。もしくは、赤く実ったリンゴか。どっちにしろ、真っ赤ということだ。


「そっか……」


 おれの反応を見て、美香は小さくそう言って、黙り込んでしまった。


 いや、完全にひいてんじゃん……

 って、そりゃそうだよな。

 メイド服着たところ見たいとか言われて、いい気分になるわけないよな……


 最近、かなり仲良くなってきたと思った途端にこれか……

 激しく落ち込みながら、おれは不用意すぎる発言は二度としないと心に誓うのだった。

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