因縁

 その日の夜。

 おれは晩ご飯の買い出しのため、近所のスーパーに来ていた。

 そして買い物を終え、買い物袋を手に下げながら、スーパーを出て、自宅までの道を歩いていると。


「あれ?工藤じゃねえか」


 そう呼ぶ声が聞こえてきたので、おれは後ろを振り返った。


「稲元……」


 そこには会いたくない人物が立っていた。

 なんでこんなとこにいるんだ。

 そう思ってしまった。


「久しぶりだなー。卒業式以来か?」


 こちらに寄ってくると、馴れ馴れしく、背中をバンバンと叩いてくる。

 この感じ、全く変わってない。相変わらずだ。


「こんなところで会うなんて驚きだよ」


「それはこっちのセリフだって……」


 できれば会いたくなかったよ。


「それでどうだ?高校は?楽しくやってるか?」


 言いながら、バカにしたように口元の端を歪める。

 相変わらず本当、性格悪いな、こいつ……


「そんなのわかってるだろ……中学の時と変わんないよ」


「あー、まだぼっちなのか?可哀想なやつだなー。もしよかったら、おれと遊ぶか?まぁおれもひまじゃないから、いつの日かって感じだけどな」


 小馬鹿にしたように笑う。


「だったら言うなよ……」


 元々、本気にしてないし、遊ぶつもりもないけどさ。むしろ、遊びたくなんかない。


「まぁお前にも早く友達できるといいな。それじゃ、お前と違って人を待たせてるからまたな」


 終始、小馬鹿にした態度で稲元は笑いながら、去っていった。


 何しにきたんだよ、あいつ。

 たまらず、そんな一言が出てしまう。


 稲元いなもと あきら

 中学の時の同級生。

 まさかの三年連続同じクラスでもあった。

 顔立ちもそこそこ良く、運動神経抜群で頭も良いというチートみたいな存在。

 なので、その容姿からかクラスの中心人物だった。

 高校へは別々に進んだからまさかこんなところで会うなんて思ってなかった。


 稲元は悪い奴ではない。表面上は。

 誰にでも分け隔てなく接し、その性格からか人望も厚い。一部からは。


 実際は自分が人気なのをいいことに、おれのようなぼっちや陰キャをとことんバカにする最低の性格だ。


 もちろん、大衆の前ではやらない。

 イメージが下がるから。

 二人っきりの空間に奴の本性は出てくる。

 ネチネチとこっちのコンプレックスな部分をつついてくる。

 かくいうおれも例外ではなかった。

 三年間、おれはいつもあいつに遊ばれていた。

 毎日一人で楽しいのかとか、修学旅行どうすんだとか、嫌味ったらしく言われたもんだ。

 稲元の本性を知ってはいるが、ぼっちの言葉に耳を傾ける奴はいない。それがわかっているから、あいつは本性を見せるのだ。

 まじで性格曲がってるよね。いや、ネジかな。


 しかし、そんな奴がいつも輪の中心にいる。

 全くどうなってんだ、この世界は。


「はぁ……」


 先ほどまで腹ペコだったのに、今は全然空腹なんか感じない。

 気分を完全に悪くした。

 それにしても、なんであいつがこんなとこにいるんだ。もう二度と会いたくないのに。

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