リア

 時刻は午前十時時半を少し過ぎたところ。

 おれ達はショッピングモールへと辿り着いたのだが。


「すごい人だな……」


「うん、ほんと……」


 ショッピングモールに入った瞬間から視界に広がる大勢の人の波に、たまらず二人揃って呆気にとられてしまう。


「ここ最近にしては珍しくあったかくなったし、それに今日は土曜だから余計に混んでるのかな……」


「それにしたって、まだ午前中なのに、この数は多すぎだろ……」


 この人数のほんの少しがスイーツバイキングの店に来ただけでもやばそうだな。

 まぁ予約しないと入れないから、その点は大丈夫だろうけど。


「そういえば、何時から店に入れるんだ?


「あ、うん。十一時からってことになってるよ」


「お、そうなんだ。じゃあもう店の前まで行ってても良さそうだな」


 すぐに行けるのは、ありがたいな。


「うん。あー、楽しみだな」


 ワクワク、ソワソワと言った様子で顔を綻ばせる美香。

 ものすごい楽しみにしてたんだろうな。

 まぁテレビで特集されるくらいの店だもんな。

 甘いもの好きなら、尚更って感じか。


 そんなことを思いながら、おれと美香は予約している店に向かうのだった。














 ♦︎













「いらっしゃいませー」


 店に入るなり、店員さんの声が店内に響き渡る。

 程よい時間になったので、おれ達は目当ての店に入店した。内装はかなりファンシーな感じでオープンしたてだからか、かなり綺麗だ。


 そして、やはりというか予想通り、店内は大混雑しており、やや経ってからおれ達の元に男性の店員さんが駆け寄ってきた。


「えっと、二名様ですね。こちらへどうぞ」


 おれと美香を少しだけジッと見た後、店員さんはそう言って、席へと案内してくれたのだが。


「ねぇ、海斗、ここってさ、カップル多くない……?」


「おおおう、いきなりストレートに言うね……」


 口にしたのは美香なのに何故かおれの方が恥ずかしくなってきてしまう。


 そう。美香の言う通り、おれ達が案内された周りには、ケーキ以上に甘ったるい空気を発生させているリア充、つまり、カップルばかり。

 なんとこの店にはカップルしか座れないカップルシートなるものが存在していたのだ。

 おれ達も何故かそこに座っているというわけである。どうしてこうなった。

 何故、ここに案内されたんだ。


「変な気、使わなくていいのにね……」


「うん……」


 だが、気恥ずかしくて、お互い、それ以上言葉が出てこない。

 それになんか全否定するのは申し訳ないというかなんというか……

 とりあえず、こうなった以上、早く食べて、出ていくしかないだろう。

 おれは心の中で少しだけ覚悟を決めた。


「まぁもう仕方ないし、とにかく食べてみないか……?」


 こうして話している間にも多くの人がケーキが置いてあるテーブルに群がっている。


「そ、そうだね。そうしよう……」


 席に案内されてから既に五分が経過。おれ達は、ようやく席を立ち、長いテーブルの上に置かれているケーキを物色し始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る