ゲス

「今日はありがとうね。楽しかった」


「こっちこそ。それより、うるさい親で申し訳なかった……」


「気にしてないよ。楽しいご両親で羨ましいくらい」


 美香は、ふふふと笑う。


 今は夕方の六時前。いや、辺りも暗くなってきたし、もう夜か。

 美香がそろそろ帰るというので、途中まで送っているところだ。

 うちの親は、どうせならご飯を食べていけばいいと行っていたが、いきなりご飯を一緒に食べるのはさすがに困るだろうと思ったので、断っておいた。


「あ、じゃあ、この辺りでいいよ」


 十字路に差し掛かった時、美香が言った。


「あ、そうか。じゃあまた明日な」


「うん。またね……」


 少し名残惜しそうに言ってから、美香は離れていった。かと思えば、すぐにこちらに戻ってきた。


「あ、あのさ……」


「う、うん。どうした?」


 少し言いづらそうにしている。

 見たことがない様子だったので、おれは少し驚いた。最も、美香と知り合ってからまだそんなに日は経っていないが。


「来週さ、良かったら一緒に出かけない……?その行きたいところがあってさ……」


「行きたいところ……?ま、まぁどうせ暇だから、大丈夫だけど……」


「ほんと!?よかった!じゃあまた詳しいことは連絡するね!」


 満面の笑みを浮かべながら、美香はこちらに手をブンブンと振りながら、去っていった。


「……」


 どこに行きたいんだろう。

 そういえば、美香の好きなものとかって知らないな。

 これは、良い機会かもしれないな。

 って、おい、ちょっと待て……

 軽く返事しちゃったけど、これってデート……だよな……


「……!」


 そう思った時、自分の顔が熱くなっていくのがよくわかった。

 こんなぼっち野郎があんな美少女とデートだと……?

 やべぇ、どんな服着ていけばいいんだ。

 タキシードとか着ていけばいいかな……

 いやいや、そんな気合い入れたら美香がびっくりというか困惑しちゃうよな。

 そもそも、タキシード持ってないし。

 パーティにでも行くのかって感じだし。

 ま、まぁあんまり気負いしなくても良いよな。向こうは友達として誘ってくれたわけだし。


 おれは熱く火照った顔を冷ますように、わざとゆっくりと家までの道を歩いていくのだった。













 ♦︎












「ただいま」


 いつもの倍近い時間をかけて、ようやく家に帰ってきた。

 そろそろ晩ご飯の時間かな。

 そんなことを思い、おれはリビングのドアを開けた。


「おかえり。遅かったな」


 そこにはテーブルイスに座り、ご飯を食べている親父と台所に立つ母さんがいた。

 何故か、手に持った茶碗には赤飯が入っており、それを食べている。


 結局、炊いたんかい……


「いつ帰ってくるかわからなかったから、先にご飯にしちゃったの。ごめんね」


 母さんはそう言ってから、おれの茶碗に赤飯をよそう。


「別にいいよ」


「もしかしたら、朝帰りすんのかなとか思ってたよ。そしたら、帰ってきたからびっくりしたわ」


「本当ゲスだな!?」


 親父ってこんなキャラだったっけ!?

 もう少しマシだと思ってたけど!


「悪い悪い。まぁ久しぶりの親子の会話なんてこんなもんだろ」


「絶対違う気がするわ……」


 もっと健全な会話したいわ……

 おれは心の中でツッコミながら、イスに座るのだった。

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