ホラーと大人
「はぁはぁ……」
パニックの連続で混乱する頭を抱えながら、肩で激しく息をする。
そして、そのまま、目の前の部屋のドアを恐る恐る開ける。
そこは浴室だったようで、蛇口があった。
他には何もない。おかしな現象も起きない。
ほっと一息つきつつ、蛇口をひねると水が出てきた。
ここにきてから、身体も随分と汚れてしまったので、ちょうど良いと蛇口から出てくる水で顔や腕を洗っていく。
そして、はぁと息を吐き、蛇口の上に付いてある鏡に映る自分の顔を眺める。
「……!」
次の瞬間、鏡に映っていた自分の顔がまるで屍のように醜く変貌してしまったので、たちまち恐怖に包まれ、慌てふためく。
「ぎゃー!」
テレビにその映像が映ったタイミングで美香はおれの腕をへし折る勢いで掴む。
「ちょっと、海斗、何とかしなさいよ!男でしょ!?」
「いや、何とかしろと言われても……」
ギリギリと痛む腕を抱えつつ、おれは困り果てた。これはあくまでフィクションなんだから……
だが、そんな一言を言っても美香には通用しないだろう。
ホラー映画を見始めたのは良かったが、驚かせるシーンがあるたびに、美香はおれの腕を掴んで、ギリギリと力を込める。
最初はその仕草にたまらずドキッとしたが、今はいつか折られるんじゃないかと思って、違う意味でドキドキしてるいる。
しかし、まだ半分以上あるのか……
おれは少し頭を抱えた。
果たして、腕は持つのか。いや、もしかしたら腕以外もヤられるかもしれない。
「おい、お菓子持ってきたぞ」
そんな時、ドアがノックされて、そこにはトレーにお茶とお菓子を持ってきた親父が立っていた。
やけに爽やかな笑みを浮かべている。
それが逆に気持ち悪い。
「あ、ありがとうございます……」
美香は親父が来たことで、慌てておれの腕を掴んでいた手を離し、少し驚いた様子でペコリと頭を下げた。
「何しにきたんだよ……」
おれは親父からトレーを受け取ると、そう尋ねた。絶対に何かよからなことを考えているのは明らかだった。
何故なら、こんな気を利かせた行動は初めてに近いからだ。
「いやいや、さっきからやけに叫び声が聞こえてきたからな。拒否されたのかと思って」
「拒否ってなんだよ……別に映画観てただけだよ」
「ほう……大人の映画か……程々にしとけよ……」
親父はニヤニヤしながら、最後に爆弾発言をして去っていった。
「大人の映画……?」
その言葉を聞いて、美香は首を傾げた。
「いやいや、気にしなくてもいいって……それより、続き見よう」
あの親父、本当余計なことを……!
幸い、美香はピンときてないようだったからよかったけど、あのセクハラ親父……
本当最低だな。
その後、映画を無事に観終え、おれの腕もなんとか無事であった。
もちろん、大人の映画など観てはいない。
興味がない……わけではないけど……
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