友達
「それじゃ、そろそろ帰るね……」
「ああ、毎日ありがとうな。来てくれて嬉しかったよ」
「ううん……」
イスから立ち上がり、病室から出て行く際、軽くこちらに手を振ってから美香は出て行った。その仕草がやけにかわいくて、自分の顔がほんのり赤くなっていくのが分かった。
入院生活三日目。つまり、最終日。
面会時間も終わり、すっかり夜になった。
後、一回寝ればめでたく退院だ。
と言っても、まだ身体は完全には回復していなく、退院してからも自宅療養をするように言われている。
「そろそろ晩ご飯持って来ようか?」
美香と入れ替わるように病室のドアが開くと同時に看護師さんの声が聞こえてきた。
「あ、はい。お願いします」
それがそう返事をすると、病室のドアが閉まり、そしてまたすぐドアが開き、晩ご飯が運ばれてきた。
しかし、病人扱いだから仕方ないけど、なんで病院のご飯ってこんな味気ないんだろうか。
おかげでこってこての油ギトギトの唐揚げとか無性に食いたくなる。退院したら目一杯食べてやろう。
「あのさ、一つ聞きたいことあるんだけど」
そんなことを考えていると、おれの前まで晩ご飯を運んできてくれた看護師さんが尋ねてくる。
「なんですか?」
「さっきまでここにいた女の子。あの子、彼女なの?」
「ぶっ……」
突然のその質問におれはたまらず吹き出してしまった。
これからご飯だってのに、汚いことをしてしまった……
「い、いやいや、ただの友達ですよ……」
そこまで言っておれは口を動かすのを止めてしまった。
友達……久しぶりに使うな、この単語……
高校生活が始まって、ようやく友達ができたのか……
な、なんか胸が熱くなってきたな……
目もなんか熱いし、どうしたんだろう……
「どうしたの?」
そんなおれをみて看護師さんが首を傾げた。
「あ、いや、なんでも……とにかく彼女は友達ですよ。彼女なんかじゃ」
「えー、友達ー?毎日あなたのために病院まで来てさー。しかも大量にリンゴ剥くしさぁ、よくわかんないけど、とにかく友達ってことはないでしょうよ」
「いやいや……それにここに来るのは事故を起こした責任を感じているみたいだからですよ」
「それだけじゃないわよ、絶対。どうしてこう男の子って鈍感なのかしら。それで私はあの時……」
看護師さんはブツブツと言いながら、病室から出ていった。
な、なんか過去にあったみたいだな……
しかし、美香が彼女だなんて……ありえないよな。そもそも、釣り合わない。今の関係だって、奇跡のようなものなんだ。これ以上、望むまい。
「それより、早めに食べちゃうか」
明日は朝早く手続きとかもあるって言ってたし、早めに寝よう。
そう思い、おれは運ばれてきた晩ご飯を食べ始めるのだった。
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