入院

「ん、あ……?」


 ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れない白い天井が広がっていた。

 どこだ、ここ……?

 というか、おれ、何してたんだっけ……


「って、いって!」


 身体を起こそうとした瞬間、全身に走る痛みで、ぼんやりとしていたおれの意識はたちまち覚めてしまった。

 痛みを堪えながら、身体のあちこちを触ると、手や足に所々、冷却パックが置かれている。

 これはかなりの事故だったのか……?


「あ、目覚めたのね」


 おれの声を聞いてか、カーテンを開けて目の前に、白衣の天使……いや、綺麗な看護婦さんが現れた。

 見た目からして二十代だろうか。

 色白ですらっとしていて、かなりの美人だった。


「自分に何があったか覚えてる?」


「確か……」


 おれは顔を俯かせて、記憶を呼び起こした。

 確か、あの時、デジカメをキャッチして、態勢を崩して、そのまま……


「階段から落ちた……」


「そうよ。でも、落ち方が良かったみたいで幸い、全身の打撲だけで済んだの」


「はは……打撲だけでか……」


 おれは乾いた笑いが浮かべた。

 今の全身打撲ですら、きついのにこれ以上の怪我なんて想像したくないな。


「それより、あなたに会いたいって人達がいるわよ」


「え?」


 看護師さんがそう言って、一歩引くと、そこには美香と田村がいた。


「あ、あの……」


 田村は一歩前に出てくると、小さく口を開いた。


「ごめんなさい!」


 そして、思いっきり頭を下げた。


「私のせいでこんな怪我を負うなんて……なんてお詫びすればいいか……」


「いや、あのおれが勝手に転げ落ちただけだからさ、そこまで負い目を感じなくても……」


「私もごめんなさい……」


 田村に続くように美香も静かに頭を下げた。


「いや、あの本当、大丈夫だって……」


 そこまで反省された感じを見せられると、ものすごく困るな……


「何か訳ありな感じなのはわかったけど、面会時間、実は過ぎてるのよ。悪いけど、話はまた明日とかにしてもらえるかしら?」


 おれ達の間にある空気を取り払うように看護師がそう言う。

 そして、美香と田村はおれの方をチラッと見た後、名残惜しそうに病室から出て行った。


「って、え、面会時間って……?」


「全身打撲だからね、安静のために三日は入院してもらうわよ?」


「え、まじですか……?」


「まじですよ。明日詳しく説明するから、今日はゆっくり休んでちょうだいね。あ、晩ご飯は後で運んで持ってくるから」


 そう言って、病室から出て行く看護婦さん。

 まさか、入院なんてことになるなんて……


 心の中で思いながら、おれはベッドの上でゆっくりと横になった。


「う……」


 少し動かすだけでも全身が痛い……

 こりゃ確かに普通の生活なんて無理だよな……

 家に帰っても誰もいないから、全部やらなきゃいけないし……


「ん?」


 その時、ベッドの横にある机の上に置いてある携帯が震えた。

 おお、転げ落ちたにも関わらず、こいつは無事だったのか。それは助かったな。


 少し安堵しながら、画面に目を落とすと美香からのメッセージが来ていた。


「明日また行くね……」


 確実に落ち込んでいるのが目に見えるな……


「ああ、また明日な。それより、あんまり気にしなくて大丈夫だからな」


 なので、おれはそう打って返信をして、そのままベッドの上でゆっくりと身体を休めるのであった。

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