ウサギ

「ただいま」


 美少女であり、氷の女王である美香と別れてから、程なくしておれは家に辿り着いた。

 玄関を開け、そう口を開くが、返事はもちろんない。

 まぁ、一人暮らしだから当たり前である。

 といっても、アパートを借りて住んでいるというわけでない。


 高校進学と同時におれの親父は地方に単身赴任となった。

 そして、それについていくように母さんもそれについていった。

 まさかの息子を一人にするとは思わなかったが、おれのこと以上に親父のことが心配だったらしい。というのも、親父は仕事はできるが、家事はまるでできない人間なのだ。

 一人になれば、家も荒れるし、日々のご飯だってどうなるか……というのが目に見えていたので、母さんはついていったわけだ。

 なので、おれは期間限定の一人暮らしをしているわけだ。しかし、学校でもほとんど話さない、家でも話さないなので、おれの喉はいつか枯れてしまうんじゃないかと思っている。

 しかし、まさかあんな美少女と出会うことになるとはな……

 しかも、同じ学年で……

 いくら、おれでも気付くと思うが……

 おれはソファの上にカバンを置くと、ポケットの中にある携帯を取り出して、ソファに座った。


 はぁ、そんなすぐメッセージなんて来ないよな……

 い、いや、別に気になっているわけじゃないんだけどさ……って、誰に言ったんだろ……


 ブーブー!


「!」


 その時、携帯がメッセージを受信したので、おれは驚きのあまり、携帯を手から落としそうになった。


 本当にきたよ……


「この前は本当にありがとうね。私って結構気難しい性格みたいだから、うまく言えないんだけど……ありがとう」


 メッセージにはそう書かれていた。


 まぁ助けたのは偶然なんだけど、改めて言われると照れるな……


 おれはリビングで一人、頭をかきながら、メッセージを眺めていた。


 って、あ、既読になってるから早く返事しないと不安になるかな……

 おれは慌てて文字を打ち込んだ。


「何事もなくて本当によかったよ。じゃあ、また明日学校で」


 そう打ち込み、返信。

 そして、わずか数秒で返信が来た。

 はや……


「うん、また明日学校で……」


 ふぅ、しかし、女子とメッセージアプリのやりとりなんて初めてだな。

 思えば、美香にはおれの初めてを色々と奪われていっている気がする。

 って、この言い方はめちゃくちゃ気持ち悪いな……

 それにおれが単に経験してなかっただけだし……













 ♦︎












「見て見て!ネットに載ってたネコちゃん!かわいいよね!?」


「今日の晩ご飯はカレーだったよー!沢山食べちゃった……海斗はカレー好き?」


「明日は冷えるんだって……寒いのやだなぁ……」


 くそ!メッセージの受信が止まらねぇ!!

 ってか、いちいち報告してこなくていいんだけど!?


 会話が終わると数十分後にはまた別の会話を繰り広げてくるし、なんなの、この子!

 ウサギみたいに寂しくなると死んじゃうのかな。


 しかし、おれもコミュ力ないから、すぐに会話終わらせちゃうんだよな……

 まじでそれは申し訳ないと思う。

 ああ……とか思ってたらまたメッセージ来たよ……

 頑張って今度は長く話せるようにしよう……

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