メッセージ

 胸焼けしそうなものすごく甘ったるい昼休みを経て、午後の授業も終わり、ようやく放課後。


 おれは放課後になった瞬間、カバンを掴むと足早に教室から出ていった。

 まさか、こんなすぐに外にいるわけないよな……

 しかし、そのお目論見は甘かった。


「あ、きたきた」


 おれが教室から出ると、そこには既に美香がいて、壁にもたれかかっていた。

 そして、おれを見つけた瞬間、嬉しそうに微笑む。


「は、早いな……」


 いくら隣のクラスとはいえ、どんなスピードしてるんだよ……

 もしかして、スピードスターか?

 雷に打たれて、驚異的なスピードを手に入れたっていうあれか?


「それより一緒に帰ろ?」


「あ、ああ……」


 やっぱりそうなるよな……

 まぁ嫌ってわけじゃないが……


「「「……」」」


 いや、やっぱり嫌だな。

 振り返ると、教室からクラスメイトのほとんどがこっちを凝視してるわ。

 中には「羨ましい」とか「滅せよ……」とか聞こえてくる。滅せよってなんだよ、悪霊扱いか。


「あんたら、邪魔なのよ。さっさと消えなさいよ」


 しかし、そんなギャラリーを見て睨みながら、辛辣すぎる言葉を飛ばす絶対零度の持ち主。

 相変わらず冷たいな……

 でも、その言葉を受けて「ありがとうございます!」とか言ってる奴がいる。大丈夫かな、あれ。ちょっと怖いんだけど。


「早く行こ。ここ、キモいの多すぎだから」


「え、あ、ああ……」


 そう促され、おれは美香の後に続いて歩いていく。

 本当なんなの、この態度の変わりよう……

 そう思いながら、おれ達は学校から出て行くのだった。















 ♦︎












 学校を出てから、おれ達は同じ道を歩いていた。

 昨日までぼっちだったやつがこんな美少女と下校を共にすることになるなんて、信じられるか?

 夢としか思えないんだけど。


「海斗はどのあたりに住んでるの?」


「え、あ、ここの道を歩いた先だよ……」


「そうなんだ、じゃあもうそろそろお別れかぁ……」


 言いながら、明らかに少し落ち込む美香。

 やめて!なんかものすごい罪悪感だから!

 ちょっと遠回りした方がいいのかなって思えてきたけど、今更違う道を行ったら、怪しまれそうだし、仕方ないけど、やめておこう。


「ま、まぁ明日学校でまた会えるからさ……」


「そっか、そうだよね……あ、じゃあさ、連絡先交換しようよ?」


「あ、ああ……」


 美香が携帯を取り出してきたので、おれも慌てて、ズボンのポケットに入っている携帯を取り出した。

 そして、メッセージアプリの連絡先をお互い交換する。

 おおお、久しく使ってなかったアプリに新しい名前が……言ってて悲しいけど。

 しかも、そのほとんどがメルマガの中で、まさかの美少女の美香の名前……


 おれはたまらず、目頭を抑えてしまう。


「海斗?どうしたの?」


「雨が……降ってきた……」


「雨?ものすごく晴れてるけど?」


 おれの言葉に美香は首を傾げる。


「いや、雨だよ……」


「意味わかんない」


「え、あ、ごめん……」


 おれは慌てて、手を離した。

 まさかの絶対零度がおれにも来るとは思わなかった。びっくりした。うん、びっくりした。


「あ、それじゃ、この辺で……」


 そうこうしているうちに、すぐそばにおれの家が見えてきたので、おれはそう言った。


「あ、うん、それじゃね……」


 小さく手を振る美香。

 その仕草が妙にかわいくて、おれは少しの間、ドキドキしっぱなしで、美香と別れるのだった。

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