健全な男子高校生
「……」
「……」
今、この場には正反対の二人がいる。
一人は何故か満面の笑みでこちらを見てくる美少女。
もう一人はこの状況が理解できず、ただ萎縮しているモブキャラ。
おれ達は食堂に来ていた。もちろん、昼ごはんを食べるために。
しかし……
全然食欲沸かねぇ……
さっきまでお腹と背中がピッタンコ。だったのに今じゃ、空気を吸うのに必死だよ。
おまけに周りの群衆からは、ものすごい好奇の目で見られてるし、なんかおれ達の周りだけ円が出来上がってるし、ミステリーサークルみたいになってるじゃないかよ。
もはや、怪奇現象だよ。
「あのさ」
そんなことを考えているおれを見て、美香さんが口を開いた。
「え……?」
「食べないの?」
「え、あ、ああ……」
その言葉でおれは慌てて箸を掴むと、すすり始める。
昼ごはんには味噌ラーメンを頼んだ。
しかし、味付けが味噌なのかとんこつなのか塩なのか、舌が全く認識しない。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね?」
「あ、ああ、うん……」
必死に麺をすすりながら、おれは頷いた。
フードファイターって、いつもこんな感じでご飯食べてんのかな……
いや、あの人達はきっとこんな辛い思いをしなくても、食べられるだけのキャパがあるんだ……
くそ、誰でもいい。おれと胃を交換してくれ……
どこかにマッドサイエンティストいないかな。
「二年五組の
言いながら、ニッコリ微笑む。
やべぇ、なんか頭の上に輪っかが見える……
これがもしかして天使なのか?
いや、キューピットなのか?
イマイチ、天使とキューピットの違いがわからないけど……
ってか、同学年だったのか……
こんな美少女がいたなんて、知らなかったな。なんで気づかなかったんだろう……
「あ、おれも二年だよ。四組の
「海斗……いい名前……」
「あ、ありがとう……」
こういう時、なんて答えればいいかわからなくて、おれはぎこちない礼を言うしかなかった。
「それより、松原さんはご飯食べないの?」
「なんかその言い方他人行儀……遠慮なく、美香って呼んでくれていいんだよ?」
松原さんは拗ねたように頬を膨らませた。
さながら、ハムスターのようだった。
もちろん、かわいくないわけがない。
「あ、じゃ、じゃあ美香……」
言いながら、おれは顔がものすごく熱くなるのを感じた。
女子を名前で呼ぶのって何気に初めてじゃん……
自分で言ってて悲しいが、これがモブキャラの宿命なのだ。
「うん、海斗……」
美香は嬉しそうに頷くとおれの名前をゆっくり呟いた。
何この雰囲気……?
もしかして、このままチューとかしちゃう?
一夏の思い出作っちゃう?
今は秋だけど。
「なんか海斗の顔見てたら、胸がいっぱいになってきちゃった……」
「あ、そ、そう……」
そんなん言われてなんて答えりゃいいんだよ!
もっと見てくれ……とか言えばいい?
いや、絶対無理。そんなキザすぎるセリフ。
言ったら最後、死ねるわ。
「尊い……」
「え?」
すると、突然そんな言葉が聞こえてきたので、おれが周りを見渡してみると、何人かの生徒が卒倒していた。
全員、穏やかな笑みを浮かべている。
逝ったか……
「なんで倒れてんの、まじで意味わかんない」
しかし、それを一蹴する女王の一言。
まじで容赦ねぇな……
「って、それよりさっさと食わないとやばい……」
時計を見ればあと10分ほどで昼休みが終わりになる時間だった。
ラーメンも半分以上残っている。
勿体無い。しかし、全てを平らげるキャパは残念ながらない。
「あー、もう終わりか……」
名残惜しそうに声を上げる。
「って、結局ご飯食べてないじゃん……大丈夫なの?」
「大丈夫。別のエネルギー源見つけたから……」
そう言って、舌舐めずりをする美香。
そ、その仕草はやばすぎるよ……?
こちとら健全な男子高校生なんですよ。
化けの皮を剥いだら、そこにはケダモノしかいないわけで、危うくそのケダモノが飛び出てきそうになるところだったよ……?
おれは必死に胸を抑えながら、ラーメンをすするのだった。
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