デレる
翌日の朝。
「……」
おれは足首に包帯を巻いた状態で登校していた。
結局あの後、動けずにいたおれはタクシーを呼び、そのまま病院に向かうハメになった。
幸いにも軽くくじいただけとのことだったが、治るまでは負担をかけないように走ったりするのは厳禁と言われた。
全く、とんだ災難だよ。
くそ、あの美少女……
同じ学校というのはわかってるんだ。
見つけたら文句言ってやる。
そんなことを思いながら、下駄箱で上靴に履き替え、階段を上がろうとした時のことだった。
「……」
なんと、目の前にあの美少女が立っていたのだ。
まさか向こうからやってくるとは思わなかったな……
「あなた、昨日助けてくれた人よね……?」
「ああ、うん、そうだけど……」
おれのこと覚えたのか……?
あの一瞬でよくまぁ……
「少し話したいことがあるの……」
そう言って、階段を上がらずに廊下の先へと進んでいってしまう。
おっと、これは更に意外な展開だ……
♦︎
廊下の先を歩いた先にある中庭におれ達はやってきた。
「あの……」
美少女はくるりとこちら側に振り返ると同時に盛大に頭を下げた。
「ごめんなさい!昨日、私を助けてくれたのに……何も言わずに立ち去ってしまって……」
「ああ、いや。別に……」
本当は心の中で罵詈雑言の嵐を考えていたのだが、美少女の謝罪でそれもどこかに吹き飛んでしまった。
「あなたが助けてくれてなかったら、私、今頃どうなってたか……」
「ま、まぁ何もなくてよかったじゃないか……」
おれは苦笑を浮かべた。
こういう時に気の利いたセリフを言えるようになりたい……!
そういうスキル、どっかに売ってないかな……
「優しいね……ありがとう……」
おれの言葉に美少女は優しく微笑んだ。
くっそ、なんだその顔。めちゃくちゃかわいいじゃないか!
こちらこそ、ありがとうございますだよ!
おれが心の中でそんなことを思っている時だった。
「あ、美香さん、今日もかわいいですね!」
後輩だろうか、通りがかった男子の一人が話しかけてきたのだが。
「気安く話しかけないでくれる……?」
すると、先ほどまでの表情はどこへやら。
まるで極寒の冬でもやってきたんじゃないかと思えるほどの、いてつく寒さが襲ってきた。
何より、目の冷たさがやばい……
「相変わらずの絶対零度だ……」
自身の肩を抱きしめながら、その男子生徒はそう呟きながら去っていった。
「あ、ごめんなさいね、とんだ邪魔が……」
照れ臭そうに笑う美香さん。
その態度の変わりようにおれはびっくりしてしまう。
「あ、そろそろホームルームの時間だね。それじゃ、またね……」
軽く手を振りながら、彼女はおれの前から去っていった。
なんか思ってた展開と違うな……
まぁでも、これ以上深く関わることはないだろう。
♦︎
かったるい授業も終わり、昼休みになった。
おれはいつも通り、学食でご飯を食べようとイスから立ち上がる。
「工藤君、呼んでる人いるけど……」
しかし、おれがイスから立ち上がったちょうどその時、クラスメイトの女子にそう声をかけられた。
「え、おれに……?」
たまらず、そんな一言が出てしまった。
こんなクラスの中でもモブで空気みたいなやつを呼ぶ人なんているわけないでしょ……?
人違いか、あ、もしかして先生が呼んでるとか?
そんなことを思いつつ、おれは教室から出た。
「やっほ」
「なんで……?」
なんと、教室の前には美香さんが立っていたのだ。小さく手を振っているのが、これまたなんともかわいいらしい……って、いやそうじゃなくて……
美香さんは青色の小さな巾着を手に持っている。
おそらく、お弁当だろう。
ということは、まさか……
「お昼一緒に食べよう?」
oh.やっぱり……
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