第10話 極上の美味
「待って!」
僕は飛び起きた。
その反動で、近くにいたハスミの頭とごっつんこしてしまった。
ハスミは半分笑いながらー。
だけど顔はちょっと怒っていた。ほっぺたを膨らましている。
「いたあーい! もうっ!」
「あ、ご、ごめん」
僕はキョロキョロと、我が家の普段と変わらない光景を目にして安心した。
だけど何故だろう。
涙が溢れて止まらない。
ハスミは僕を抱き締めてくれた。
頭を撫でてくれている。
いつも通りのハスミの感触が伝わる。
「おーよしよし、怖い夢でもみまちたかー?」
「ち、ちょっと、やめてよ」
僕は照れ臭くなって立ち上がった。
ハスミはキャッキャと笑って言った。
「大河、ごはん食べよ」
僕は嬉しくなった。
テーブルの花柄のランチョンマット。
白のマグカップの中で、熱々のオニオングラタンスープが湯気を立てている。
こんがり焼けたトースト。
ハスミはいちごジャム。
僕はバターをたっぷり。
ゆでたまごはごろんと偉そうに主張している。
僕は顔を洗って椅子に座った。
ハスミは僕の顔を覗き込んでいる。
いつもと変わらない潤んだ大きな瞳で。
「大河、大丈夫?」
僕は眼をゴシゴシさせて笑った。
その時、外から轟音が聞こえて僕は固まった。
ハスミが言った。
「どしたの?」
「あ、いや、あの」
「もうっ! なに? ヘリコプター?」
「あ、いや、ミサイルかなって思って」
とっさに出た言葉に、ハスミはまた笑った。
「もうっ! ごはんたーべよ。いただきまーす」
僕も後に続いて。
「いっただっきまあーす!」
って言った。
熱々のオニオングラタンスープ。
いつもと同じ味。
とろとろのチーズは口の中であばれている。
僕の大切なひとの、大好きなオニオングラタンスープ。
ふたりでハフハフしながら食べているのがなんだか可笑しくて。
だけど、今の僕にとってそれは極上の味だった。
おしまい。
35.729 139.7182 夢堕ち みつお真 @ikuraikura
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