#46 線の世界観と点の世界観

『機械カニバリズム』という本を読んでいる。機械やソフトと人間との相互の干渉のなかで生まれる新しい概念や既存の概念の再構築について語っている。科学技術の是非や人間社会の行く末などに興味がある人は是非ご一読していただきたい。

 この中で、機械と人間との間を考察するにあたって選ばれたのが、将棋ソフトと棋士との対局だ。人間は自分の戦術を線として捉え、序盤から終盤までの大きな流れを意識して自分の手を決めていく。しかし機械は、一手一手を点として捉えその瞬間に一番良いと思った手を毎回考え直す。目指す形のようなものはない。その対称性に、機械による人間の捉え直しの秘密が隠されているというのだ。非常に興味深く読ませていただいている。

 ところで棋士の自戦記を読んでいると、その手を指したときの心情を事細かに説明している。これも、対局を1つの「流れ」として捉えているからなのだろう。自分はこれまでの人生の中での選択を、細かく思い出せるだろうかと考えたときに、全く思い出せないことに気付く。

 目指すべきところが分からないまま、その場その場で何となくよさそうな道を選んでいるだけだ。つまり自分はAI的な人間なのかもしれない。


2022年1月21日

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