#31 サボタージュ

──学校に行きたくない。

 布団の中にいた私は強く思った。そんなことを考えたのは初めてだった。サボるという言葉を知ってはいたが、それは自分とは関係のない世界の言葉だと思っていた。

 どうやって母親を説得すればよいだろうか。行きたくないと主張するためには相応の理由がないといけない。身体にめちゃめちゃ力を入れたら体温計を騙せるんじゃないかと思ったがまったく効果がなかった。

 お腹が痛いと言おうとしたが、すんでの所で思いとどまった。お腹が痛い演技を、すくなくとも午前中の間ずっと続けられるのか? と自分で自分に問うた。私は自信がなかった。悲痛な声や肌に浮かぶ冷や汗を全部再現できるとは思えない。

 頭痛ならどうにかなるんじゃないかと思った。とりあえず気怠そうにしておけばいい。実際に自分は今気怠いのだから嘘じゃない。

 頭が痛いというと、母親はひどく心配した。もう一度布団に入るように促してくれた。私はほっとした。

「頭痛薬飲んどきなさい」

 私の背中がぞっとした。頭痛なんてしないのに頭痛薬を飲んでもいいのだろうか。よくないはずだ。頭痛を止めるための何かが身体の別の場所で悪いことをするに違いない。 渡された薬を口に含んで、水で流し込む。私は頭が痛いのだから、これを喜んで飲み込まなければいけない。

 飲みたくない薬を飲んだせいか、私は本当に頭が痛くなった。


2021年2月11日

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る