#29 スマホの雨宿り


 スマホの電源を切ってみた。ご飯を食べるときも、食器を洗うときも、歯を磨くときもお風呂に入るときも必ず何かしらの動画や音楽を再生していた。

 常に情報の雨に打たれていた私の心は冷えて固まっていた。だからちょっとの間だけ雨宿りをすることにした。相変わらず心は雨を求めている。ざあざあと雨が降る音が聞こえる。すぐにでも傘を差さずに飛びだしてしまいたい。でもだめだと言い聞かせて足を踏ん張る。

 常に雨を受けていないと怖かった。まるでナメクジやミミズみたいに、乾いたら死んでしまうような気がした。情報を常に受け取っていないと時間がもったいない、頭を無駄にしてしまうと感じた。

 やってみると、意外とそうではないことに気がついた。何も得ないときは何かを練っている。頭はあまのじゃくだ。考えようとすると何も出てこない。考えまいとすると頭がぐるぐると回り始める。考えることは眠ることで、考えないことは起きることなんじゃないかと思った。雨に打たれながらだと眠ることが出来ない。でも雨宿りをしてみるとよく眠れた。


2021年2月9日

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