#2 強制終了(長押し)

 いつも使っているパソコンの中には緑色の板が入っている。表面を観察すると小さな金属の道が張り巡らされているのが見える。これは電子の通り道で、ここを何億何兆もの電子が高速で駆け抜ける。細かい金色の五目模様は、人工衛星から眺める日本の都市のように見えた。

 玄関から一歩飛び出す。私は電子だ。私は電流そのものになった。情報を運び、歴史を運び、想いを運ぶ。何度も何度も往復する。

 光の速さで飛び回った時、自分は何を思うだろうか。楽しい? 怖い? 光速に近づくほど身体が重くなると聞いたことがあるので、身体を動かすのが面倒になってしまうかもしれない。

 電圧が急激に低下し始めた。私の足は止まった。全てが停止する。街は静まりかえり、眠りについた。やかましかったファンのうなりがなめらかに途切れる。

 私はパワーボタンから指を離し、真っ暗になったモニターにカバーを掛けた。

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